ブーン系小説をまとめて紹介しているサイトです
HOME | 問合せ
【合作】( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです

第17世界  天国◆xh7i0CWaMo

700 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 21:56:47.10 ID:u0xrEI1p0
助けてください

ごめんなさい

助けてください

ごめんなさい

助けてください

ごめんなさい

助けてください

ごめんなさい

助けてください

ごめんなさい





              ( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです

            『IN ( ^ω^)ブーンが天国にいったようです』


702 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 21:57:39.98 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「あ……」

ジョルジュさんが小さく驚きの声を上げた。

('A`)「……どうも」

こういう時、どう対応すればいいんだか。
俺は死んだことになっているだろうからなあ。

( ゚∀゚)「ドクオじゃねえか、生きてたのか!」

灰色のビル、生活感の欠片もない街。
全てが、なんとなく懐かしい。

('A`)「ちょっと気絶しただけっすよ」

( ゚∀゚)「ふうん……でもなぁ、見たところケガもしてないじゃねえかよ」

('A`)「まあ、そうっすね。悪運は強いらしいっす」

( ゚∀゚)「お前の何を見てクーさんたちは死んだと思ったんだろうなあ……」

ここは天国、隔離フィールド。
放棄され、この世界自体が終焉を迎えるまで、残り僅からしい、よ?

703 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 21:58:13.59 ID:u0xrEI1p0
scene A-1

隔離フィールドについで、三行で。

精神の腐った魂ばかりが溜まっている場所。
天国全体を統括する管理局によって、放棄が決定された。
放棄された魂は闇を彷徨うことになる。
魂は永遠に残り続け、例え発狂したとしても誰も助けてはくれない。
今は、一つの争いを終えて膠着状態……だと思われる。

数行多いな。
まぁいいや、知ったこっちゃねえ。

( ゚∀゚)「いや、それにしても生きているに越したことはねえはな」

どこまでも陽気な人だ。

('A`)「ええと、どうなったんすか?
    事の顛末は」

( ゚∀゚)「ああ。安心しろ。お前の知っている人物で、まだ天国に残ってるのは俺だけだ」

ブーンとツンは助かった。
クーさんは、自らの意思で闇に行った。
そして、ジョルジュさんもそのつもりである……と。

ジョルジュさんは端的に説明してくれた。

705 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 21:58:50.35 ID:u0xrEI1p0
つまり、ブーンとツン以外の知り合いは全員闇に消えたことになる。
……忌々しい。
なんでブーンが、生き残ったんだ。

あいつは、俺を殺したんだぞ? この、天国で。
俺は生きたいと、確かに叫んだというのに。

( ゚∀゚)「どうした?」

('A`)「あぁ、いや、なんでも」

( ゚∀゚)「それにしても、ブーンの狂いっぷりはひどかったよ」

('A`)「狂い? ブーンが、っすか?」

( ゚∀゚)「ああ、例の発作の究極って感じかねえ」

それで、か。……心の内で、薄々感づいていたと自覚する。
俺は狂人と化したブーンに撃たれたんだな、頭を思いっきり。
ああ、じゃあ仕方ないな。精神異常だもんな。はいはい、減刑減刑。

……んな気分になれるわけねーだろうが、糞が。

706 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 21:59:51.78 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「で、お前はこれからどうする?」

('A`)「どうする、といいますと?」

( ゚∀゚)「今、お前が俺に殺されれば、お前の魂は闇に行くことなくリサイクルされるはずだ」

そういう重たい台詞でも、ジョルジュさんはずけずけと言う。
俺は黙って聞いている。
むしろ、そうすることしかできない。

( ゚∀゚)「だが、このまま生き存えれば闇を彷徨うことになる」

('A`)「……」

( ゚∀゚)「お前自身は、どちらを望む?」

さて、重要な選択ですよコレ。
ここで死ぬことを選べば、記憶も意識も何もかもを失ってもう一度現世に帰ることができる。
逆に、ここで生きることを選択すれば意識や記憶を伴ったまま闇に行くことになる。

闇は、まぁ、しんどいらしい。
永遠に彷徨うことになって、発狂したところで誰かが助けてくれるわけでもないそうだ。

常識的に考えれば前者だが……なぁ?
先に消えていった人たちのことを考えるとどうにもいたたまれない。
だからといって自分の身を売り出す必要性もない気がするが。

生物には生存本能ってあるもんね。
この場合、どっちが「生存」ということになるんだか。

707 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:00:22.27 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「……ま、今すぐに決める問題でもねえだろうさ。
     考える時間はまだ数時間あるはずだ」

ジョルジュさんの表情が緩み、俺に思考を促した。

( ゚∀゚)「さて、これからどうする?
     短い時間だが、博打に溺れるのも個人的にはアリだと思っている」

('A`)「あ……ジョルジュさんはどうするんです?」

( ゚∀゚)「俺? 今の状況を見りゃわかるだろ。
     俺は闇に行くよ。ギコや兄者の後を追うさ」

で・す・よ・ねー。
そりゃそうだ、友情とかなんか、そういうのんで左右される人なんだ、この人は。
本質的にバカだから。

ま、バカじゃなかったらこんなところにも来ないだろう。

( ゚∀゚)「しかしまぁ、あんだけ青臭い台詞吐いたあとに誰かと会うってのも気恥ずかしいもんだ。
     お前があれを聞いて無くて良かったよ」

下品な笑い声が、ヤケに耳に残った。

708 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:01:16.92 ID:u0xrEI1p0
灰色のビル群、褪せたアスファルト、そして星一つ、雲一つ存在しない夜空。
天国の情景を語るのに、これ以上の単語は必要としない。

大通りは、少しばかりの麻薬中毒者が見受けられるだけで、あとは閑散としていた。
みんな死んだのだろう。闇に消えたのだろう。
この世界、来る者は全て等しい裁きを受けて然るべきだ。

なのに、ブーンとツンだけは許された。
ブーンについては管理局の手違いだという。
それが事実だとしても、ここで殺人を犯したんだから何もかわらねえだろうと、思うわけです。

そこんとこ、アンタはどう思いますかねえ?

( ゚∀゚)「どうした?」

('A`)「ああ、いえ、何も」

( ゚∀゚)「今から博打んとこに行くが、それでいいんだな?」

('A`)「ええ、別に」

( ゚∀゚)「あそこ、まだ営業してるかねえ」

その時、一つの異変が眼前に生じた。

712 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:02:34.70 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「お?」

気づいたジョルジュさんが足を止める。

最初、それは幾つかの光子だった。
揺らぎ、踊る光子は加速度的に数を増す。
やがてそれは数え切れないほどの多さになって、目の前の空間を浮遊しはじめた。

その光景に、見覚えがあった。
あれは、そう。しぃの持っていた銃だ。
撃たれた人間は死体と化さない。光の粒となって拡散し、そのまま闇へと一直線。

だが、今回は逆だ。むしろ、光は集束しようとしている。
それはやがて一つの塊になった。
そしてゆっくりと上下、或いは左右に変形させていく。

最終的に、それは人の姿を象った。

('A`)「誰かが死んで、天国にやってきたんすかね?」

( ゚∀゚)「そうだとしても、こんなにファンタジックな登場シーンは見たことねえなあ」

人物から光が剥がれ、その姿が露わになる。
一人の少年だった。


714 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:03:48.40 ID:u0xrEI1p0
(主^ω^)「こ、ここが今回の世界かお……」

( ゚∀゚)「……ん、あー……んん?」

('A`)「……」

(主^ω^)「あ、こ、こんにちはですお! ぼ、僕は、ええと……」

少年はしどろもどろになりながら、どうやら自己紹介しようと努めているようだ。
イノセントな瞳、汚れの無い心が見られる。
確信できた。ここに来るべき人間ではないと。

だがその姿形、顔、表情までも。

似すぎていた。

( ゚∀゚)「おい、何してんだ!」

気づくと、俺は銃を抜いて奴の眉間辺りに照準を合わせていた。
ジョルジュさんの叫声が無ければ引き金を引いてたんじゃないだろうか。
むしろそうしたかった、ああ、カタルシスが欲しい。

(主^ω^)「ちょ、いきなりそんなもの向けないでくれお!」

('A`)「何で止めるんすか、ジョルジュさん?
    この世界で、殺し殺されは常識でしょ?」

( ゚∀゚)「いや、まぁ、そりゃそうだが……つか変わったな、お前」

('A`)「そうすかね?」

715 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:05:00.33 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「話を聞いてからでも遅くはねえだろう。
     俺には、危ない人間には見えねえ。
     ……おい新参、お前の名前は?」

(主^ω^)「名前……名前は、覚えてないお」

( ゚∀゚)「名無しさんか」

('A`)「ブーンでいいんじゃないすか?」

( ゚∀゚)「おま、似てるけどなあ」

(主^ω^)「ブーン? それ、誰のことだお?」

( ゚∀゚)「まぁそういうやつが昔いたのよ。
     よく似てるから、お前もブーン、オーケー?」

(主^ω^)「わ、わかったお」

これでよし。
こいつはブーン。
こいつは、ブーン。
衝動的に殺してしまったときに、罪悪感が少なくて済みそうだ。

( ゚∀゚)「それで、お前は何者だ? 死んでここにきたのか?」

718 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:05:56.19 ID:u0xrEI1p0
およそ定型的な会話が展開されるので省略。
要約すると以下のようになる。読み飛ばし可能。

ブーンは、別の世界からDATとかいう意味不明なブツを探すためにここに来た。
なんでも、コイツの世界はFOXとかいう糞みたいな野郎のおかげで大変なことになっているらしい。
父の願いを受けたブーンは、こうしてこの隔離フィールドにやってきた……と。

冗談だと笑い飛ばしたジョルジュさんにブーンはDATを実際に見せつけた。
彼の持つ光の結晶みたいなものは、DATの一欠片らしい。

(主^ω^)「そんな感じで、信じてもらえたかお?」

( ゚∀゚)「うん、まぁ、大体のことはわかった。
     でもタイミングが悪すぎるな」

(主^ω^)「お?」

( ゚∀゚)「この世界、あと四時間ぐらいで放棄されるぜ」

(主^ω^)「……ま、マジかお!? や、やべーお、早く探さないと!」

あー。
うるせえなあ。

719 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:07:13.12 ID:u0xrEI1p0
('A`)「そのDAT、どんな力があるんすか?」

(主^ω^)「想いを込めると力を発揮するんだお」

('A`)「……」

想いの力……つまりあれか、イマジネーションか。
ふーん。
なるほどねえ。

・・・

・・



□□□□□□□□□□

720 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:08:03.42 ID:u0xrEI1p0
scene B-1

例えば、の話をさせていただく。
以下、数十行読み飛ばし可だ。むしろ読み飛ばせ。具体的にはこのレスと次のレスだ。
内容が気になると言うならば、先に一行でまとめておこう。

妄想垂れ流し。

オーケーかな? ん?
それでも読みたいとのたまうファッキン野郎は勝手にすればいい。
内容を記憶しようとしたら、片っ端から殺す。

さて。

仮に私が正常だったとして、もしもその頃に弟者と出会うことができればどうなっていただろう。
場所も天国じゃなくて現世で、弟者が病気じゃなくて健康だったとしたら。

いや、この際病気であっても構わない。
熱心な看病生活、そして最期に弟者が死んで私が世界の中心で愛を叫ぼう。
三文小説の出来上がりだ。印税一億は見込める。

いや、でも、やはりごく普通の生活を望みたい。
例えば、彼の誕生日が来たとしよう。
その日、私は彼の帰りを待っている。
そして、彼のために手作りのケーキを用意してみよう。

少々形は崩れてしまうだろうな。何せ、私はそこまで料理が上手くない。

それでも弟者のことだ、笑って許してくれるだろう。
そして私は、さらなる腕前の精進を誓うのだ。

723 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:09:00.98 ID:u0xrEI1p0
クリスマスやバレンタインデーといった種々のイベントは大切にしたいな。
ん? チョコ会社の陰謀? だからどうした。
彼とともに楽しめる日であるならば、なんでもいいんだよ。
むしろそういう記念日を広めてくれた陰謀とやらに感謝したいほどだ。

人生計画も必要かも知れない。
結婚は……まだ先でいいだろう。
そんなものに縛られるより、やりたいことは山ほどあるのだ。

それこそ、死ぬまでにやりきれないほど。

でも、やりたいことばかりやっている、というわけにもいかないだろう。
仕事はしなければならないし、それに伴う障害も多々発生するに違いない。

だが、それでもいいのだ。
それが普通の生活であり、普通の幸せなのだから。

幸せ。
そう、幸せが欲しい。
人並みの、殺し合いをしなくてもいい幸せ。
望んだとき、弟者に抱き締めてもらえる幸せ。
朝が来れば光を与えられる幸せ。

傲慢にもほどがある。
ああ、自覚してるさ。

725 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:09:50.59 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「もう、オーケー?」

川 ゚ -゚)「まぁ、な」

ああ、そうだ。
全部妄想だ。叶わぬ願いというものだ。
最早光すら私には降り注がない。

そういう未来を、他ならぬ私が選んだのだ。

从'ー')「それじゃあ弟者さん探しを続行しようか」

彼女の名前はキィと言う。
なんでも、DATとかいうものを探してこちらの世界にやってきたらしい。
つまり、彼女は異世界の人間なのだ。

一つ断っておく。
私に、彼女の顔を知ることは許されていない。
何せ、今の私には眼も、耳も無い。そもそも身体が無く、意識だけの存在として闇を浮遊しているのだ。

かつて、敵だった女が言っていた。

「死んだら、闇の世界を永遠に彷徨うことになる」と。


726 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:11:11.95 ID:u0xrEI1p0
彼女は私の魂に語りかけ、また私の心の声を聞きとることができるらしい。
だから私は彼女の存在を感じ、言葉を交わすことができるのだ。
姿が見えないのが残念だ。ただ黒色ばかりを感じている。
目を閉じているというよりはむしろ、目を開けて暗澹を見ている気分である。

川 ゚ -゚)「すまないな、わざわざ手助けしてもらって」

从'ー')「いいよいいよー、私もDATを探さないといけないから気にしないで!」

その口ぶりに好感が持てる。
性格の良さが窺い知れた。

川 ゚ -゚)「私は見ることもできないが……ここはどうなってるんだ?」

从'ー')「ううん、見えても一緒だと思う。ほとんど真っ暗」

川 ゚ -゚)「そうか」

从'ー')「あ、でも、でもね。クーの姿はわかるんだよ」

川 ゚ -゚)「本当に?」

从'ー')「うん! なんかね、緑っぽい光なんだ。
    そういうのが、暗い中にもポツポツ見当たるよ」

私同様に、闇に放り出された人間たちか。
その中にはしょぼんさんやギコさん、兄者さんもいるんだろう。
そして、弟者も……

727 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:12:36.16 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「それでね、それでね、なんかとっても無重力なの。空も地もなくて、ふわふわしてる感じ」

川 ゚ -゚)「うん、そうか」

声音からは無垢な子供であるように思える。
聞くところによると、この子がDATなるものを手に入れなければならないらしい。
こんな子供が、別世界で一人……ロールプレイングじゃあるまい。

川 ゚ -゚)「キミは……どうしてここに?」

从'ー')「うん、と。フォックス様の命令なんだよ」

川 ゚ -゚)「ふぉっくすさま、か」

聞き慣れない、人物名か?
別世界だから、狐そのものである可能性も否定できないが。

川 ゚ -゚)「じゃあキミは、そのフォックス様のためにここでDATを探しているのか」

从'ー')「……」

返事はなかなか返ってこなかった。
やがて、彼女は言いにくそうに言葉を紡ぎ出す。

从'ー')「フォックス様は悪い人なんだ」

川 ゚ -゚)「悪い?」

从'ー')「あった世界を自分のために滅ぼしちゃった。
    でも、そんなフォックス様が私は好きなんだよぉ……」

728 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:13:23.40 ID:u0xrEI1p0
その息骨はどこか恍惚とさえしていた。
つまり、彼女は悪者の手下だということになる。

川 ゚ -゚)「わかるよ」

从'ー')「へ?」

川 ゚ -゚)「その気持ち、非常によくわかる」

常識的感覚ではないだろう。
狂っている故の道徳かもしれない。
だが、これは私の率直な感想だ。

好きな相手が悪者だから、狂っているから、退廃的な魂だから……
そんな甘ったるい正義論が一体、どれほどの拘束力を持つというのか。

从'ー')「ありがと」

その呟きは、どこか恥ずかしげに聞こえた。

从'ー')「絶対見つけるからね、弟者さん!」

729 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:14:08.22 ID:u0xrEI1p0
時間感覚が綺麗さっぱり失われてしまっていた。
だから、どれほどの時が経過したかなど推測もできない。

あれからキィの声が途絶えてしまったことを考えると、DAT及び弟者探しは難航しているのだろう。

弟者と再会する……そう意気込んで闇の世界にやってきたわけだが、実際に探すことなど不可能だった。
何せ視覚も聴覚も封じられ、あまつさえ気配も感じ取れないのだ。

だから、キィという存在は非常にありがたい。

从'ー')「ううん、見つからないなあ」

キィの溜息にも似た困り声。

川 ゚ -゚)「DATというのは、見つかりやすいのか?」

从'ー')「本来は光の結晶みたいなものなんだけど、世界によって形を変えるからね……
     闇にとけ込んじゃってるかも。そうだとしたら、探しようがないんだよ」

川 ゚ -゚)「大変だな。せめて、手伝うことができればいいんだが」

从'ー')「んーん、大丈夫大丈夫!」

顔があれば、笑みの形を作っていただろう。
どこまでも、気丈な子だ。
余程フォックスなる者が好きなんだな。


731 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:15:09.31 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「お?」

不意に、キィが小さく声をあげた。

川 ゚ -゚)「どうした?」

从'ー')「うん、とね……」

返事に戸惑っている。
一体何が起きたというのか。

从'ー')「見つけたよ、DAT……」

川 ゚ -゚)「本当か? よかったじゃないか」

从'ー')「それが……」

・・・

・・



□□□□□□□□□□

732 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:16:13.23 ID:u0xrEI1p0
scene A-2

( ゚∀゚)「……とまぁそんな感じで、この世界にはロクな奴がいないわけよ」

ブーンが示す方向へと歩きながら、ジョルジュさんは天国についての説明を彼に施していた。
奴は興味深そうに聞いている。
そんな二人を前に見ながら、俺はその後をついていく。

それにしても静かだ。
いつもなら銃声や怒号、悲鳴といった負のBGMが絶えないというのに。
やっぱり、ほとんどみんな死んだんだろうなあ。

( ゚∀゚)「それで、まだなのか? DATの場所まで。
     もう、ずいぶん歩いた気がするが」

(主^ω^)「共鳴の力はどんどん強くなってきているお……
      あ、こっちだお」

ブーンは大通りから分岐する路地の方を指さした。

( ゚∀゚)「こっちか……っておい、ドクオ」

('A`)「あい?」


734 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:17:39.20 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「テンション低すぎるだろ。乾燥わかめみたいな顔しやがって」

('A`)「ちょっと考え事してるんすよ」

( ゚∀゚)「あ、そうか……
     そりゃ、悪かったな」

ジョルジュさんはきっと、別の意味合いで受け取っただろうな。
まーどーでもいいや。

壁に挟まれた路地は街灯の光も届かず真っ暗だ。
足下に気をつけながら進んでいく。

( ゚∀゚)「ああ、このあたりは兄者の組織の拠点じゃなかったっけか」

元天国の実力者だったジョルジュさんが独り言を漏らす。
だが、直後彼は立ち止まった。
銃を引き抜き、並んで歩いていたブーンを咄嗟に背後へ追いやる。

( ゚∀゚)「こりゃあ、珍客じゃねえかい?」

その声が、少し震えていた。

(???)「でしょうね……私も、驚いてる」


735 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:18:15.75 ID:u0xrEI1p0
小さな交差点に立つ人物。街灯に照らされ、その姿が朧気にも確認できる。
女だった。その嬌声に覚えがある。

( ゚∀゚)「一つ、聞いてもいいか?」

(*゚ー゚)「聞かれる前に、答えてあげるわよ」

しぃ。
管理局の人間。元々は、隔離フィールドの住人。
そして――俺たちの敵。

(*゚ー゚)「不思議でしょう、私も不思議。
     確かに私は、あなたやブーンに殺されたんだものね。
     でもね、でもね、生きてるの」

( ゚∀゚)「天国でゾンビって何の冗談なんだか」

(*゚ー゚)「ほら、見てよここ」

彼女は自らの眉間を指さした。
いや、そこに指を挿入した。

(*゚ー゚)「ここをねぇ、撃たれたの……ブーンにね」

指を眉間から抜く。それ全体が、光を受けててらてらと輝いていた。
なんだそりゃ。天津飯にでもなりたかったのか。


736 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:19:40.29 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「おうおう、痛そうに」

(*゚ー゚)「うん、痛い……とっても痛いよ……だからねえええええれえ」

彼女が地を蹴って走り出した。
まっすぐこちらへと接近してくる。
増加する恐怖、或いは不安のような何か。

狂ったブーンからも感じなかった、ある意味新鮮な負の感覚。

(*゚ー゚)「この痛みを、あなたにもわけてあげるよ〜」

銃声が響いた。
それは至近距離……ジョルジュさんの持つ銃から発せられたものだ。
まともに受けたしぃが前のめりに倒れる。撃たれたのは、胸か腹あたりだろう。

(主^ω^)「……操られてるお」

ふと、ブーンが呟いた。

( ゚∀゚)「どういうことだ?」

起き上がろうとしないしぃから眼を離さず、ジョルジュさんは問いかける。

(主^ω^)「闇の力みたいなものを感じるお。
      多分、あの人はフォックスに操られてるんだお」

739 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:21:17.32 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「死体をわざわざ手駒にしたのか、それとも死体しか見当たらなかったのか。
     どっちにしても趣味が悪いな」

(* ー )「ヒハハハハハハハハハハハハハハハ」

突如、しぃがうつぶせのまま笑い出した。
その音は闇を劈いて遠いところまで響き渡っただろう。

(* ー )「ねぇ……ネェ……人海戦術って知ってる?」

それに呼応するかのように。
闇の一部が形を持ったかのように、無数の人間が彼女の後ろから現れた。

やぁやぁ、見事なラインナップだこと。
ニダーと、俺の四肢を華麗に潰してくれたヒッキーを先頭に、幾十人。
暗澹の中にどれだけの人数が潜んでいることか。

ふと机の下を覗いたらゴキブリが数十匹群れていた。
そういう、得体の知れない、精神が麻痺しそうな恐怖心に押し寄せられている現状。

( ゚∀゚)「武器を使わないのが幸いだな。
     リアルバイオハザードってところか」

('A`)「ど、どうするんすか!?」

ゾンビに集られて死ぬなんてオチは嫌だろ……常識的に考えて。

741 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:22:47.19 ID:u0xrEI1p0

( ゚∀゚)「……逃げろ」

立ち上がり、今度はゆっくりと迫り来るしぃを見据えてジョルジュさんが一言。

( ゚∀゚)「とりあえず時間がねえ。
     俺が上手く立ち回って足止めしてやるから、遠回りしてでもDATを手に入れてこい
     なに、死んでも大して痛くはねえよ」

('A`)「いや、でもジョルジュさん……」

( ゚∀゚)「ほれほれ、俺は兄者と違ってカッコいいこと言うの苦手だからさっさと行け!
     ドクオ、ブーンを守りきれよ!」

そして俺たちを後ろへと突き放すジョルジュさん。
一瞬後、銃声が幾つか響いた。

(主^ω^)「お、お……」

('A`)「ッ……!」

俺は、とりあえずブーンの腕を掴むと走り出した。
だが、よく考えてみよう。
ブーンによると、DATがあるのはこのあたりなのだ。

ならば、DAT近くにゾンビどもが巣くっていると考えるのが妥当じゃ無かろうか。

……ムリじゃん、迂回。
いや、それでもジョルジュさんなら、なんとかやってくれるはず。


743 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:24:23.14 ID:u0xrEI1p0
('A`)「おい、ブーン」

ここまでくれば大丈夫だろう、と。
適当に考えて走るのをやめる。
そもそも運動苦手なんだよ、走るとか勘弁してくれ。

場所は大通りのど真ん中。
人影が見当たらないのが、逆に不気味だ。

(主^ω^)「な、なんだお?」

('A`)「DATはどこらへんにある?」

(主^ω^)「く、詳しい場所はわからな」

('A`)「大体でいいんだよ!」

(主^ω^)「共鳴の力から考えると……あのビルの中にあるんだと思うお」

ブーンが示す方を見上げる。
そこに普遍的なビルが一つ。視界の内では、最も高い建物だ。

(主^ω^)「あれの最上階から……少し強い波みたいなものが感じ取れるお」

('A`)「多分、ゾンビの溜まり場だな」

さて、どうしたものか。
死ぬことはあんまり怖くないが、無闇に突っ込んで犬死にっていうのはできれば避けたい。

745 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:25:43.10 ID:u0xrEI1p0
その時だ。小路からぬるり、と這い出るような仕草で一人の男が現れた。
紛う事なきゾンビさん。
ただ、その顔を知っているから驚いた。

('A`)「ギコさん!?」

( ,, Д )「ぁ……ェ……?」

いつもは野性的な雰囲気を放っているのに、今は違う。
獰猛でなく、そのくせ眼を見開いてこちらを眺める。
締まり無い笑みを作った口からは、際限なく涎が零れていた。

ちょっとだけ、道化恐怖症の人の気持ちがわかったような、そーでもないような。
しぃ以上にオカシくなってるのは、頭部が欠けているからだろうか。

襲ってくる気配は無い。
ただ、黙って通してくれるわけでもないようだ。

二日続けて徹夜したように血走った眼球が不規則に動く。
やがてその両の目が、ブーンの姿を捉えた。

( ,, Д )「ぶぅ……んんんん……?」

(主^ω^)「お……」

( ,, Д )「お、おでをころした、ぶぅんじゃねえかごるぁ……」

アンタもかい。

746 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:26:40.34 ID:u0xrEI1p0

('A`)「……」

( ,, Д )「ふぉ、ふぉくすさまのめいれいでおまえらをころすぶぅぅん……を、ころす」

あーあー、もう。
ジョルジュさんの部下、或いは友人として活躍していたのはつい数時間前のことじゃありませんか?
それが今ではこの姿ですか。堕落するって簡単なことなんですねあははははははは。

よし、殺す。

締まりのない顔面に銃を向け、数発放った。
踏みとどまることもなく、ギコさんは後ろに倒れた。

(主^ω^)「こ、この隙に逃げるお!」

('A`)「阿呆かぁ?」

(主^ω^)「え」

仰向けになったギコさんの腹部を思い切り踏みつける。
彼は、カエルが潰れたような呼吸音を漏らした。

( ,, Д )「……! ぉぉぅ、どくおじゃねえかあ」

今更名前を呼ばないで欲しいです、正直。
殺しにくいし。

747 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:27:37.69 ID:u0xrEI1p0
さてと。
ヒッキーは俺をどうやって殺したっけ。
確か四肢を潰したな、おんなじことをギコさんにやってみようか。

腕に銃口をあてがった俺の腕を、奴が掴んだ。

(主^ω^)「もう十分だお、それ以上撃つ必要なんてないお!」

('A`)「……はぁ? なにいってんの? あんたばかぁ?」

構わず発砲。
彼の腕は二の腕あたりから吹き飛んだ。

('A`)「ゾンビだからさあ」

続いてもう片方の腕。

('A`)「行動不能にしないとさあ」

最後に両足。

('A`)「勝ったことになんないの、わかる?」

( ,, Д )「うぇぇぇえええぇぇえええぇえええぇ」

ボロきれみたいになったギコさんがうめき声をあげる。
とってもお似合いですよっと。あまり痛そうな表情じゃないのが少々不満だが。

748 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:29:03.01 ID:u0xrEI1p0
ところで、俺はそれほど強くない。
いや、銃というアドバンテージを失えば常人以下である。
こうやってギコさんをフルボッコにできたのは当然、彼が銃も持たない無防備人間だったからであって。

いや、それだけじゃない。
彼に固執したのには別に理由があって、それを俺は自覚している。

つまり、必死にブーンを殺そうとする姿に自分を見たんだ。
あれ、同族嫌悪。

(主^ω^)「ひ、ひどいお……」

ブーンが引いている。当然か。

('A`)「……こいつらは所詮ゾンビだ」

皆の魂は闇に消えた。
つまり、ここで喋っているのは操っているフォックスとかいうゲスの仕業である。
それが例え意識や記憶をトレースしていても、それは関係ない。

ああ、なんて都合のいい解釈。

752 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:30:09.36 ID:u0xrEI1p0
勿論、それは俺自身にも当てはまる。
今の俺は一体誰なのか。

自己の存在証明なんざ中学生あたりで捨てるべき問題なんだろうが、ここではそうも言ってられない。
俺の本当の意識は闇に消えたはずであって、本来俺はここに存在してちゃいけない。
そもそもなんで身体までピンピンしてるのか。俺の潰れた身体はどこにいった?

まぁ、考えて答えの出る問題じゃない。
今は、眼前のハプニングに全力を注ぐとしよう。

('A`)「さっさと行くぞ。ギコさんみたいなはぐれゾンビにいつ出くわすかも知れねえ」

(主^ω^)「わ、わかったお……」

ブーンは不満げだった。
皺の寄った眉間をぶち抜いてやろうかなどと、一瞬考えた。

我慢だ、我慢。

・・・

・・



□□□□□□□□□□


754 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:30:49.79 ID:u0xrEI1p0
scene B-2

川 ゚ -゚)「結びついている?」

从'ー')「うん」

キィは神妙な口調で肯定する。

彼女が言うには、DATは見つかった。しかし、これをそのまま持ち帰ることができないのだという。
理由は明快。誰かの魂が、そこに結合しているからだ。

川 ゚ -゚)「DATというのは、魂と融合するものなのか?」

从'ー')「聞いたことない。でも、私もこの世界がどんな原理を以て成り立っているか知らないし……」

まぁ、少々特殊ではあるだろうな。

从'ー')「それともう一つ」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

从'ー')「このDATが結びついているのは魂だけじゃない」

川 ゚ -゚)「何?」

从'ー')「……世界、このDATはどこか小規模の世界と繋がっている」

川 ゚ -゚)「デタラメだな」

从'ー')「ほんとだよー!」

756 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:32:05.54 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「この世界、なんか変」

川 ゚ -゚)「承知している。それで、何か対処法はないのか?」

从'ー')「あるといえばある……でも、ちょいと荒っぽい」

川 ゚ -゚)「それは?」

从'ー')「私の持つDATには、世界を移動する能力が含まれているの。
    それを使って、DATが結びついている世界へ侵入する。
    そこにはきっと、DATの核みたいなものがあるはずなの」

ん、んー?
ダメだ、三行なのに理解できない。

从'ー')「要するに、今私がするべきことはあの世界への侵入。
     そしてそこで、DATを見つける」

川 ゚ -゚)「……ふむ、そいつは、大仕事になりそうだな」

ほとんど理解せぬまま言ってみる。

从'ー')「ただ、リスクもあったり」

川 ゚ -゚)「それは?」

从'ー')「結びついたDATを想いの力で無理矢理元に戻した場合、その世界がどうなるかわからない
     何せ、こんな事態初めてだから……」

757 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:33:06.95 ID:u0xrEI1p0
ふむ、なるほど。
……あー、うん。素直な子だ。

川 ゚ -゚)「そんなもの、キミが考慮する必要なんて無いじゃないか」

从'ー')「え?」

川 ゚ -゚)「キミは別世界の人間で、果たさなければならない使命を持っているんだ。
     DATを回収しなければならないのだろう? だったら、案ずることはない。
     世界が崩壊しても、責任を感じる事なんてないさ」

从'ー')「……」

川 ゚ -゚)「フォックスって人を、助けたいんだろう?」

暗闇の中、彼女の戸惑いが息づかいとなって伝わってくるような気がした。
あくまで妄想の範囲を超えないが。

しばらくして返ってきた答えは、私の予測するところとは微妙に異なっていた。

从'ー')「そう、かもしれない。でも、それだけじゃないの」

川 ゚ -゚)「何か他に、懸案事項が?」

759 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:34:12.17 ID:u0xrEI1p0

从'ー')「さっきも言ったけど、DATは世界の他に幾つもの魂と結ばれているみたいなの。
     視覚で認識する限り結晶に緑色の粒がくっついてる感じ」

川 ゚ -゚)「ああ」

从'ー')「その中の一つに……弟者さんらしき人が」

キィは魂を見て、その人物がどんな姿をしているか大体見分けることができるらしい。
弟者の容姿は伝えてあった、つまり。

川 ゚ -゚)「本当か」

从'ー')「うん」

川 ゚ -゚)「ならば、尚更」

行かねばなるまい。

川 ゚ -゚)「キィ、私を連れて行くことはできるか?」

从'ー')「え? んー……うん、他の魂同様結晶にくっつければいいんじゃないかな」

川 ゚ -゚)「頼む」

从'ー')「でも、でも弟者さんが、それにクーさんまで……」

川 ゚ -゚)「いいか、よく聞いてくれ」


760 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:35:42.85 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「私は一度腐った魂だ。だからこうやって救われない浮遊を続けている。
     ここにいる魂は皆そうだろう、弟者とて……同類だ。
     キミがどのような世界のためにDATを集めているのか知らない。
     しかし、まだキミたちの方が生きていく価値がある。
     その世界のためにDATが必要ならば持っていけ、誰にも文句は言わせない。
     なぜなら、生きるべきだから」

从'ー')「クー……」

一度に喋ると疲れる。
実際は口も動かしていないし、呼吸もしていないけだが、こう、精神的に。

从'ー')「……でも、それでいいの?
    弟者さんは納得するかな?」

川 ゚ -゚)「キミに心配されるまでもないな。
     彼は、優しいから」

从'ー')「わかった。それじゃあ、ちょっとの間我慢してね」

決意の声から数秒。
不意に、私の身体が何かに包み込まれた。
それは妙に温かく、覚えてもいない胎内が頭に浮かんだ。

それから更に数秒。今度は、唐突な揺れに襲われた。
身体が揺れているわけでも、脳みそがゆれているわけでもない。そもそもそんなものは持っていない。
なのに、揺れる。乱気流に巻き込まれた飛行機内のように。

直後、私の意識はしばらく閉じてしまった。

761 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:36:57.13 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「おーきーてー!」

嬌声にふと、覚醒する。
上体を起こして周囲を見渡す。
そこに、できればかなぐり捨てたい思い出の光景が広がっていた。
久々の重力が、久々の身体にのしかかる。

从'ー')「こういう世界なんだけど……見覚えはある?」

川 ゚ -゚)「ああ、ここは天国だ」

これはまた、酷い場所に来てしまったものだ。
だが、ここなら崩壊しても文句はない。

从'ー')「なんか、変な場所……」

寒くもないだろうに、キィは自分の身体を抱き締めた。
その外見は中学生ぐらいである。

川 ゚ -゚)「可愛いな」

从'ー')「ななな、なんですか突然!?」

フォックスとやらはロリコンなのだろうか。
さておき、

川 ゚ -゚)「ここに、DATがあるのか?」

从'ー')「うん。はやく探さないと……」


764 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:38:17.91 ID:u0xrEI1p0
天国は夜を迎えていた。
私が死んでから間もないのだろう。
いや、少しでも時間が経過していたなら致命的だ。

私が死んだ数時間後、天国は放棄されてしまうはずだったから。
もしそうなれば、DATはおろかキィ自身も無事でいられるかわからない。

それに、私は私で弟者を探したい……

彼を見つけることができたなら、私は罪を償わなければならない。
必ず見つけ出さなければならないのだ。
これは、神さま或いはそれに似たような類が与えてくれた最後のチャンスなのだろう。

あの瞬間、病床に伏し、そのまま天国からも逝ってしまった彼の後を追うことを、私は躊躇ってしまった。
いつまでも一緒、と宣言したのは私の方だ。
愛していたはずなのに、私は死ぬことすらできなかった。

だから謝罪する。
そのためには彼を捜さなければならない。

川 ゚ -゚)「行こう。時間は、あまりなさそうだ」

765 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:39:19.55 ID:u0xrEI1p0
キィの持つDATには共鳴する力もあるようだ。
それを使えば、他のDATが大体どのあたりにあるかがわかるのだという。

从'ー')「こっち……」

キィが示す方向へと歩く。
気をつけなければならない。
ここは天国だ。いつ何時、誰が凶弾を放つかわからない。

自分が、ここに来たと同時に銃を携帯しているという事実には少々絶望した。

川 ゚ -゚)「キィ、あまり離れないほうがいい」

从'ー')「うん……」

不安は現実を呼ぶとはよくいったものだ。
次の瞬間、物陰から登場した男に、私は不快な驚愕を覚えた。

<ヽ`∀´>「に、にだぁああぁあぁ、ぁ?」

憎き顔がそこにあった。
いや、それはまともな顔としての形骸と保ってはいない。
右半分が、まるで赤い粘土になったかのように崩れかかっていた。

从'ー')「こ、これ……」

キィは怯えてはいない。
むしろ、私同様驚いているようだった。

766 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:40:15.71 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「邪魔だ」

この顔をあと一秒たりとも見ていたくない。
呆然と立ち尽くしたままのニダーの瞳に穴を空けた。

从'ー')「うわ……」

キィが感嘆とも恐怖ともとれぬ声をあげる。

それでも倒れる気配のないニダーを蜂の巣にしてやった。
時間にして数分。

全く、疲れる。

川 ゚ -゚)「……怖いか?」

一応、キィに問うてみる。
彼女は小さく否定した。

川 ゚ -゚)「こんなにも簡単に人を殺す私を、軽蔑するか?」

从'ー')「別世界の人間である私が、この世界の倫理にケチつけるなんておこがましくてできないよ」

妙に嬉しい言葉だ。

川 ゚ -゚)「ありがとう」

从'ー')「んーん」

767 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:40:51.34 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「それにしても、これは一体どういうことだ?
     何故死人、それもまともな身体を持たない奴が生きて動く」

从'ー')「多分、フォックス様の仕業。
     闇の力で操ってるんだ」

川 ゚ -゚)「今、奴はキミさえ襲おうとしてなかったか?」

从'ー')「……多分、一度に多人数を操ってるからそれぞれの統制がとれてないんだと思う。
     フォックス様の力はまだ、完全じゃない……」

だとしても、キィさえ危険に巻き込むとは。
なかなかの悪役ぶりといったところか。

川 ゚ -゚)「それでも、キミは?」

从'ー')「うん……」

彼女の俯く姿を見て確信した。
恋は盲目だ。
いや、全く。

769 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:41:40.33 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「それならば尚更急がねばならないな。障害がいつ襲いかかるかわからない」

从'ー')「うん……危なくなったら、私も手伝わせて」

前へと進むスピードが徐々にまして、やがて私たちは走り出す。
角を曲がろうとしたとき、男の叫び声と乾いた銃声が進行方向から響き渡った。

一旦足を止め、キィを後ろへ追いやる。
空気を窺いつつ、壁を背に観察してみた。

そこに立っている男は、壁に身を委ね崩れ落ちた人間に幾度となく銃を撃ち放っていた。

( ゚∀゚)「チッ……胸糞悪ィ」

ジョルジュさんだ。
そして、彼が撃っているのは……

・・・

・・・

・・・

弟者?

770 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:42:15.95 ID:u0xrEI1p0
瞬間、私の中で何かが切れた。
状況確認も済まぬまま壁から飛び出す。

川 ゚ -゚)「ぅぅぅっぅぅぅぅうぅうううううううううああああああああああああああアアアア」

無意識に咆吼が漏れた。
それに気づいたジョルジュさんが、こちらを振り向く。

( ゚∀゚)「お前、クー……」

川 ゚ -゚)「ジョルジュ!」

惑うジョルジュ。
それが、チャンスだと思った。

気づくと、私は彼の腹を撃っていた。
彼は前のめりに倒れる。

急所から外れたらしく、まで生きているようだった。

( ゚∀゚)「……バーカ」

絶え絶えに、彼は呟く。

それに応じるかのような、茶色い声に気づいた。
前を見る。無数の死人の群れが大挙して、こちらに迫っていた。

772 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:42:57.71 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「クーさん!」

キィの声に我に返る。
彼女は私の腕をひっつかむと、後方へと引っ張り戻そうとした。

川 ゚ -゚)「離せキィ、そこに弟者が!」

从'ー')「違う、あれは違います!」

川 ゚ -゚)「何が違うんだ!」

ゾンビどもはジョルジュさんを死んだと判断したらしく、目もくれない。
全ての視線が私、もしくはキィに向けられていた。
銃を向け、放つが何せ数が違いすぎる。それに奴ら、一発で倒れることがまずない。

そんなことよりも、弟者だ――

しかし死人の波が行く手を阻む。

川 ゚ -゚)「そこをどけえええええええ!!!!」

手が届きそうな距離に弟者がいるというのに、触れることも出来ないのか。

見ると、ゾンビの突撃をやり過ごしたジョルジュさんが腹をおさえながらどこかへと去っていく。
追う気にもなれないし、それは不可能だ。


774 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:43:29.00 ID:u0xrEI1p0
零距離まで迫ったゾンビが手を掲げて襲いかかってくる。
その顎を撃ち抜くが、それでも少々怯むだけで、倒れてくれさえもしない。

足を狙う方が有効、か?

从'ー')「クーさん、ここは一度退くべきです!」

その声はノイズでしかない。
すまないな、キィ。私は本質的に狂っているんだ。
キミの声を認識しても、理解するだけの頭がないんだよ。

川 ゚ -゚)「うおああああああああああああああああ」

叫んでも、状況に変化は生じない。

……ああ、何もかも、徒事だ。

・・・

・・



□□□□□□□□□□

777 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:44:25.68 ID:u0xrEI1p0
scene A-3

迂回している時間もあまりない。
結局は敵と遭遇するだろうし、もしそうなれば早いほうがいい。

('A`)「よし、行くぞ」

(主^ω^)「え、でも敵に」

('A`)「ゴタゴタ抜かすな殺すぞ」

つーか後で殺すけどね。
それでもできるだけ安全な道筋を選ぶべきだろう。
しかし、選別できるほど地理に詳しいわけでもない。
目的地はいつでも見上げることができる、唯一、それだけが救いか。

大通りから横道へ。
孤独な戦争の再開、と。

('A`)「なぁ、お前って何かすごい力とか使えないの?」

(主^ω^)「例えば、どんなのだお?」

('A`)「炎ドーン敵ギャーとか」

(主^ω^)「む、ムリだお……僕の持つDATには世界を移動する能力と共鳴能力しかないんだお」

('A`)「そんな能力だけで別世界に来るなんて、お前を送り込んだ奴バカなんじゃね?」

(主^ω^)「非常事態だったんだからしょうがないお!」

779 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:45:17.91 ID:u0xrEI1p0
そんな言い訳がまかり通ったら俺も自殺なんてしなかったってーの。
無能クズ人間は主観的に見れば「助けてくれ!」と叫びたくなるが、客観的に見ればただ鬱陶しいだけだな。
つまり、俺もそういう存在だってこった。

ビルへと向かう道。
驚くほど静かだった。
てっきりゾンビがわらわら湧いてるもんだと。

('A`)「こりゃあ意外と簡単に先へ進めるかなあ?」

(主^ω^)「それだといいお」

('A`)「お前」

(主^ω^)「お?」

('A`)「喋りかけるな鬱陶しい」

(主^ω^)「……」

調子乗ってんじゃねーよボケ。
萎縮したブーンを尻目に再び歩き出した矢先。
フラつきながら迫ってくる一人の男を見つけた。

それは――ジョルジュさんだった。

780 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:45:57.45 ID:u0xrEI1p0
('A`)「ジョルジュさん!?」

慌てて駆け寄り、支えようとするが一歩遅かった。
彼の身体は地面に突っ伏し、肩ばかりが荒く躍動している。
背中が黒く染まっていた。これは、銃弾による傷跡だ。

( ゚∀゚)「おぅ、ドクオか……ちぃとマズった」

('A`)「や、奴ら銃を使ってきたんすか!?」

よく考えれば、自分たちの考えが浅はかだったとわかる。
一人のゾンビが銃を使わなかったからといえ、後続がそれに倣っているとは限らないのだ。

しかし、ジョルジュさんは意外にもそれを否定した。

( ゚∀゚)「バーカ、雑魚に俺がやられるか。
     別の人間だよ、別の、生身の人間だ」

('A`)「そ、それは……」

そこで彼は、驚くべき名前を口にする。

( ゚∀゚)「クー……ッだ」

782 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:47:04.43 ID:u0xrEI1p0
('A`)「クーさんが!?」

シンジラレナーイ。
クーさんといえば、天国でのバカップル。
彼氏が死んだときの狂乱っぷりが印象に残っている。
確か、病死だったっけか。

それにしても、何故。
いや、そもそもクーさんは死んだんじゃなかったのか。

もしや、彼女は――

( ゚∀゚)「おっかしいなぁ……確かに俺が……殺してあげたんだがよぉ……」

――俺と同じ立場に居るのか。

(主^ω^)「そ、それよりも早く手当てしないとダメだお!」

うるせー死ね。

('A`)「しかし、何が理由で彼女は……」

( ゚∀゚)「おい」

('A`)「はい?」

783 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:48:13.55 ID:u0xrEI1p0
( ゚∀゚)「詳しく話すのが疲れるからまとめて言うぞ……ッ。
     今、ゾンビどもはクーと戦っている。今なら、ビルまでの道は手薄だ。
     行ケっ!」

ジョルジュさんの口から血と唾液がまじったような、よくわからない液体が垂れ流された。

ふむ、手薄か。
この機会を逃すこともできまい。

('A`)「わかりました、行ってきます」

(主^ω^)「ちょ、ジョルジュさんを見捨てるのかお!?」

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
いちいちうるせえええええええええええええええええええええええええええええええええええ

( ゚∀゚)「何の問題もねーよ……ギコの後を追えないのが、ちぃと心残りだが」

(主^ω^)「……そ、それが」

('A`)「ジョルジュさん」

( ゚∀゚)「あ?」

うつぶせのまま首だけ動かし、こちらを見上げるジョルジュさんの頭に、銃弾を与えてやった。

785 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:49:05.53 ID:u0xrEI1p0
まるでザクロのように爆ぜる頭部。
スイカほど綺麗じゃなく、何かの液体が止め処なく流れた。

(主 ω )「ッ……」

ブーンはおもむろに道の端に駆け寄ると、そこで何かを吐瀉し始めた。
まぁ、そりゃそうか。
俺だって、ちょっと気分悪い。

つーか、なんで俺はジョルジュさんを撃ったんだろうね。
痛みから解放させたいから……なんて、都合のいい理屈を並べてみようか。

この、仲間を殺す時に得られる感覚はたまらない。
ギコさんの時もそうだったが、やってはいけないことをしている背徳。
もうね、変態かと。

(主 ω )「く、狂ってるお……」

('A`)「狂ってない人間なんていませんけどお?
    何今更ほざいてるんですかぁ?」

本当に、察しの悪い奴だ。

787 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:50:05.73 ID:u0xrEI1p0
('A`)「さて、行くか」

(主^ω^)「……」

流石に黙り込んだブーン。
いやぁ、いい気味。

ここまでくれば、目的のビルまでは目と鼻の先だ。
ジョルジュさんは、このあたりを兄者さんの組織の拠点だと言っていた。
……つまり、兄者さんと鉢合わせる可能性もあるって事か。

兄者。
天国における実力者のうちの一人で、銃の達人。
その腕前はジョルジュさんすら凌駕するとかしないとか。

まぁ、ゾンビ化してるだろうし、そうなれば勝算もある。
しかし、なぁ。

とにかく、DATのところまでたどり着かなければ話は始まらない。
それが俺の、天国における最後の戦いだ。

まぁ、戦いとか言えるほど華々しくも正義じみてもいないんですけどね。

789 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:50:54.06 ID:u0xrEI1p0
ビルの前にたどりつく。
ジョルジュさんの言葉通り、そこは閑散としていた。
そのビルはおよそ六階建て。灰色で普遍的といったあたり、他の建造物と大して変わらない。

入り口から足を踏み入れようとしたとき、奇妙な声が周囲に響いた。

('A`)「なんだ……?」

それは、集団の悲鳴だった。
ぽつぽつと、小さかった悲鳴の粒が徐々にその強さを増し、やがて地鳴りのように轟く。
それはちょうど、雨の降り始めを彷彿とさせた。
赤い光が、見えたような気がした。

(主^ω^)「な、何が起こったお……?」

('A`)「喜ばしくない事態だろ」

なんとなく、ゾンビっぽい。
誰かが大量虐殺でもしてるんだろうか。
それはそれで、アリだけどな、こっちの邪魔さえしなければ。

('A`)「どっちにせよ、あんまりゆっくりしてられそうにねえ。
    行くぞ」

(主^ω^)「お」

794 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:52:18.44 ID:u0xrEI1p0
一階にはしきりもなく、だだっ広い部屋だけが展開されていた。
それにしてもひどい荒れ様だ。
壁には無数の弾痕、赤黒い血がそこら中に飛び散っており、ここで抗争が起きたことが容易に想像できる。

放置されていた死体は、片付けられたか、或いはゾンビとなって絶賛活躍中か。
まぁ、長く眼に映しておきたい景色ではない。

('A`)「この階にあるか?」

(主^ω^)「……多分、もっと上の方だと思うお」

こういうのって、あれだよな。
ほれ、ドラゴンボールでもあったじゃん。
一階ごとに中ボスみたいなのがいて、最上階にラスボス、みたいな。

フォックスとやらが茶目っ気たっぷりのインポ野郎だったら、そういう仕掛けをこさえてるかもしれんな。

期待と不安を入り交じらせて、俺は二階への階段をゆっくりと上っていく。

階上にたどり着くと、俺は岐路に立たされた。
一つは、左にある室内へのドア。
もう一つは、このまま三階へと進める階段。

(主^ω^)「DATはもっと上だお」

心なしか、ブーンの声も小さい。

797 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:53:24.05 ID:u0xrEI1p0
一つ、気がかりがあった。
だから俺はまず、左のドアの前に立った。
確認ぐらい、しておこうと思ったのだ。

ドアを開いて中に入る。
室内を眺望しようとしたその瞬間、銃声と弾が何かにあたって跳ねる音が響いた。

足を止める。
音の方向は自分の足下。

(´ ω `)「そのまま上に行かなくてよかったね」

柔らかい声に覚えアリ。
ああ、アンタですかいな。

(´ ω `)「脊髄当たりをぶち抜いてたよ」

('A`)「……わざわざ俺を待っててくれたんすか? しょぼんさん」

(´ ω `)「僕はそっちにいる少年を伴った人物を待っていたんだ。
       さっき誰かが上のほうへ駆け上がっていったけど、無視したしね」

しょぼん。
元々は敵方だったが、何かの理由で裏切り。
以降こちら側についたわけだが、ツンさんを助けようとして失敗。
そのまま殺されたと聞く。

そういやあ、なんでツンの奴は助けられたんだ?
あいつに情けをかける必要なんざどこにもないのに。

799 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:54:40.84 ID:u0xrEI1p0
(´ ω `)「僕はね」

それほど室内が広くないのは、幾つかに区切られているからだろう。
細かなゴミやほこり以外、何も見当たらない。

彼の胸には穴が空いていた。
血が流れた跡が見られる。しかし、今は止まっているようだ。
なぜ? わかるかんなもん。

心理の変遷については……今更突っ込んでも仕方ねえな。

(´ ω `)「キミと勝負してみたいんだ」

('A`)「その前に、一つ聞いていいっすかね?」

(´ ω `)「……何?」


('A`)「なんでそう、普通なんすか?」

ギコは完全にイカれてたし、しぃも元々のキチガイに輪にかけて酷かったし。
しかし、目の前にいる彼は至ってまともだ。

(´ ω `)「VIP待遇ってところかな……
       フォックス様がより強い力で僕を操ってくれているんだ」

ああそうですか。
中ボスですか。ハンマーブロスですか。


802 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:55:43.00 ID:u0xrEI1p0
(´ ω `)「ルールはこうだ。ここに一本の腕がある。
       これを放り投げ、地面に落ちたと同時に撃ちあおう」

それにしても腕ねえ。腕かあ。でけえなあ。

(´ ω `)「ちなみにこの腕、誰のかわかるかい?」

('A`)「……さぁ」

(´ ω `)「これ、キミの腕だよ。
       ヒッキーが持ってきてくれた」

俺の死体からせしめたのか。
趣味悪いな、知ってたけど。

(´ ω `)「互いに背を向けようか。
       この腕が落ちる音ぐらい、きこえるだろう」

('A`)「どっちが投げるんすか?」

(´ ω `)「そうだね、ここは公平に……少年」

(主^ω^)「お!?」

(´ ω `)「これ、上に放り投げてくれたまえ」

804 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:56:28.31 ID:u0xrEI1p0
腕を持ったブーンは震えている。
できるだけ見ないように顔を背けているが、指から伝わる感触を否定することはできないだろう。
ざまーみろー^^

さて。
あとは、目の前の薄らバカを殺すだけか。

(´ ω `)「用意はいいかい?」

背を向けながら呟くしょぼんさん。
ブーンが意味もなくガクガク頷いた。
で、俺は――

('A`)「ああ、いいっすよ」

後ろを向いてなんたらかんたら?
アホか。俺は西洋のガンマンじゃねえし、そんな手に乗るわけねー。
慎重に、彼のアキレス腱あたりに向かって、一撃。

体勢を崩したその背中に、もう一発。

(主^ω^)「あうあう……」

('A`)「ねえ、しょぼんさん。
    どこを撃ったら死んでくれるんすか?」

806 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:57:21.40 ID:u0xrEI1p0
(´ ω `)「変わったね……」

('A`)「変わったのはアンタの方っすよ。
    誰に対しても敬語使ってたのに」

(´ ω `)「……そりゃあ、そうさ。僕はしょぼんじゃない」

('A`)「知ってます」

(´ ω `)「誰かに依存して生きるのは楽しいよ?」

('A`)「虐殺の方が楽しいっす。いやマジで」

倒れたしょぼんさんの頬を、右から左へ貫くように一撃。
何か血塊みたいなものが転がった。
最早彼は喋ろうとしない。
ただ、腐臭の漂いそうな荒い呼吸を繰り返すばかりだ。

('A`)「この先にも、アンタみたいなVIP待遇のボスはいるんすか?」

微かに首が縦に動くのを見て脱力。

808 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:57:57.81 ID:u0xrEI1p0
('A`)「さっきの質問に答えてもらってません」

・・・

('A`)「どこをどれだけ撃てば死ぬんすか? アンタは」

・・・

('A`)「まぁ」

頭部はね飛ばせば死ぬかな、生物的に考えて。
いや、生物か?

引き金を引きながら、俺は奇妙な疑問に囚われていた。

・・・

・・



□□□□□□□□□□

810 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 22:58:43.39 ID:u0xrEI1p0
scene B-3

誰か私を止めてくれ。
狂気の沙汰だ、わかっている。
せめてキィの話を聞こうじゃないか、なぁ、私。

だが、本能か、そのあたりの人格が止まることを許さない。
幾つもの銃弾を撃ち込まれ、ボロボロの姿に成り果てた弟者を見て、正常でいろというのが間違っている。

そうじゃないのか?

そして、そうやっているうち。
私とキィはすっかり、死人の群れに囲まれていた。

こいつらは獅子か何かなのだろうか。
まるで私たち獲物の姿を見定め、一斉に飛びかかろうと機会を窺っているように見える。

从'ー')「……クー、少しの間でいいから、じっとしていて」

福音のような彼女の声。
何かを手に持ち、それを掲げた彼女は、静かに目を瞑った。

戦場にはおよそ似合わぬ聖母のような表情に、私は見とれてしまっていた。

812 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:00:07.08 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「全部、消えちゃえ」

次の瞬間、私は信じられぬものを見た。
その手が、赤く光り輝いた。それは次第に大きくなると、やがて視界の全てを覆った。

赤の中で、私は死人の断末魔の叫びを聞いた。
次に彼女の息づかい、そして、何かが燃える音。

光が彼女の手の中に集束したとき、周囲の状況は一変していた。
私たちを取り囲んでいた死人、その全ての身体から激しい炎が立ち上っていたのだ。

ビルの壁をつたい、天高くせり上がる炎。
私はその場にへたり込んで、ただ見上げることしかできない。

从'ー')「……フォックス様からもらったDATの力。
    本当は、もっと別のことに使わなきゃいけなかったんだけど
    でもこれってフォックス様への反逆……ううん、そんなことない。
    DATを持ち帰れば許してくれる、そうだよ、きっとそうだ」

彼女も同じように地面に座り込んだ。
肩が激しく上下している。余程体力を浪費したらしい。

川 ゚ -゚)「大丈夫、か?」

从'ー')「バカ!」

突然、キィは叫んだ。

从'ー')「無闇に突っ込んでいったら死ぬよ!
    それに、さっきも言ったけどあれは弟者さんじゃないよ」

815 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:01:32.16 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「それは、どういうことなんだ?」

从'ー')「確かに弟者さんに似ている。
    でも、あれはフォックス様が操っている傀儡でしかないんだ。
    ただの抜け殻だよ」

川 ゚ -゚)「……本当の弟者は、別の場所にいると?」

从'ー')「魂ある、本物がね」

なんということだ。
私は目を伏せる。
つまり、私はあれが本物かどうかを見抜けなかったのだ。

そして、勘違いの上でジョルジュさんを撃った。
あの傷だ、長くないだろう。

从'ー')「……終わったことは仕方ないよ」

キィが慰めてくれる。
優しい子だ。

川 ゚ -゚)「こういうときは、罵ってくれ」

818 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:02:19.74 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「さっきも言ったけど、別の世界の倫理にケチをつけるなんておこがましくてできないよ。
    でも……一つだけ、付け加えさせて。
    私は、私個人はできれば、クーが狂っているところを見たくない」

川 ゚ -゚)「……」

从'ー')「約束、してくれないかな?」

不思議なほどに心は穏やかだ。
だから、冷静に考えることができる。

冷静に考えて……
その約束は、守れそうになかった。

キィはしばらく私の顔をのぞきこんでいたが、やがて悲しそうに目を背けた。

川 ゚ -゚)「……少し、休憩していこう」

それが、今の私に言える精一杯の言葉だ。

炎は早くも燃え尽き欠けていた。
目の覚めるような赤に代わって、荒廃を思わせる黒がたちこめていた。

822 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:03:08.82 ID:u0xrEI1p0
そのまま十分ほど停滞していただろうか。
先にキィが立ち上がって、私を促す。

川 ゚ -゚)「……なんで、こんな世界があるのかな」

从'ー')「え?」

川 ゚ -゚)「人並みの幸せさえ求めることのできない、そのくせ成長し得ない希望を与える世界なんて……」

今更すぎる不満だ。
だが、感じずにはいられない。
キィに諭されたゆえ、尚更である。

从'ー')「行こうよ、クー」

キィが先に歩き始めてしまった。
慌てて私も後を追う。

从'ー')「私のDATじゃ何もできないけど、この世界に落ちたDATならなんとかできるかもしれない」

川 ゚ -゚)「……え?」

从'ー')「だから行こうよぉ……先に進もうよ」


823 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:04:04.43 ID:u0xrEI1p0
この子は優しすぎる。
正義の味方でも、ここまで優しくないだろう。
適当な正義論を押しつけて洗脳するのがオチだ。

不憫だ、何故この子が悪の手先なのだろう。
フォックスを愛しているから? しかし、それでも……

川 ゚ -゚)「すまないな、キィ」

从'ー')「あやまるなぁ」

泣き声で怒る彼女が、愛おしくて仕方なかった。
気を取り直すしかあるまい。
……そうだ、DATに全てを託すのも悪くない。

今は、今だけは弟者に会いたくないと思った。
彼に会えばまた、決意が揺らぎそうだから。
好きであるが故、道を踏み外してしまいそうだから。

川 ゚ -゚)「DATは、一体どこにあるかな?」

从'ー')「多分、あのビルの中」

川 ゚ -゚)「よし、じゃあ行こう」

精一杯の陽気さで私は言う。
今はまだ、正常だ。

826 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:04:54.15 ID:u0xrEI1p0
从'ー')「もう、あの力は使えない」

キィが申し訳なさそうに言った。

从'ー')「あれ、あんまり使うとDATが壊れちゃうかも知れないってフォックス様が」

川 ゚ -゚)「いや、構わないよ。
     もう、それを使うこともないだろう」

先ほどの彼女の力で、ほとんどの死人は完全に消滅してしまったようだ。
本物の沈黙が周囲を包んでいた。

最終的に、私は銃を抜くことなく目的地の前へたどり着くことができた。
そこで思い出す。
確かここは、兄者さんたちの本拠地だったはずだ。

从'ー')「ここの……多分最上階」

川 ゚ -゚)「わかった」

誰もいなければいいのだが……
銃声を聞いたのはそう願った矢先の事だった。

それも上から。

川 ゚ -゚)「……平和に、とはいかないかもしれないな」

829 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:05:57.71 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「注意しなければ。どこに敵が潜んでいるかわかったものではない」

从'ー')「う、うん」

気を配りつつ、まずは一階。
多分ここに、兄者さんの部下は集っていたのだろう。
ヤクザで言えば事務所といったところか。

しかし、酷い有様だな。
凄惨にもほどがあるだろう。

川 ゚ -゚)「……もっと上か?」

キィが頷くのを見て、私は階段を探す。

そうしているうち、また銃声。
……誰かと誰かが戦っているのだろうか。
ということはつまり、私たちの他にも死人以外の人間がいるということか。

誰だろう。
ジョルジュさんじゃ……ないだろうし。

831 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:06:37.67 ID:u0xrEI1p0
二階を少しだけ覗いてみる。
するとそこに倒れる一人の男が見当たった。
グロテスク以外のなにものでもない。
顔が完全に潰れてしまっているため、人相さえも把握できないのだ。

……にしても、どこかで見たことがあるような気がする。

三階、四階と順々に探索する。
そこには誰もいなかった。

次いで、五階。

足を踏み入れる。

娯楽の場だったのかもしれない。
雀卓とパイプ椅子が見当たった。

川 ゚ -゚)「ここでもないの……」

言葉が途切れた。
そして私は笑った。

いや、笑わずにはいられなかったのだ。

だっておかしいだろう?

なぜ、ここに弟者の死体があるんだ?

834 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:07:32.48 ID:u0xrEI1p0
仰向けになっているため、遠目にも確認できる。
さっきより銃弾の痕が増えているようだが……気のせいか?
いやいや、しかしどうやって死体が瞬間移動したというのだろう。

川 ゚ -゚)「……以前、弟者がこんなことを言ってたよ」

从'ー')「……」

川 ゚ -゚)「自分がここに来た理由は、拷問を受けた末に自殺したんだと。
     酷い話だろう? 彼の妹は変態どものいい玩具にされたらしい。
     そして彼と、彼の兄は酷い拷問に耐えられず、自殺したんだ。
     彼はこう表現していたな。支配から逃れるための、最後の反抗だった、と」

从'ー')「……」

川 ゚ -゚)「ところで、教えてくれ。
     この弟者は、偽物だよな?」

沈黙。
それすなわち、答えだった。

何かが切れた。

835 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:08:37.49 ID:u0xrEI1p0
ただ本能の赴くままに私は行動する。
視界に景色が流れた。

部屋の外。
階段、駆け上がる。
階上、たどり着いて部屋に入る。

川 ゚ -゚)「ああああああああああああああァァ!!」

そこに――

・・・

・・



□□□□□□□□□□

840 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:09:54.62 ID:u0xrEI1p0
scene A-4

さてはて、主役俺なクロニクルも最終章に突入ですかあ?

三階、四階、五階には誰もいなかった。
いや、いたような気もする。
しかし、どいつもこいつも記憶にとどめるには惜しいほどの雑魚だったことは間違いない。

残るは最上階。
もうあまり時間も残ってないんじゃないだろうか。

(主^ω^)「共鳴の力がとても強いお……この近くにあることは間違いないお!」

うっせえクズ。

最後。
誰がいるのかは、予想に容易い。
ただ、俺としては別の人物を希望したいわけだが。

上る段数が増えるのに比例し、心臓が早鐘を打つ。
ここにきてビビるっていうのも、なかなかアホらしい。

最上階、扉はなかった。
荒れ果てた室内。
しかし、転がっているものを整頓すればどこぞの会社の社長室的内装になることが想像できた。

そこに立つ、男。
まさに想定の範囲内。

841 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:10:40.80 ID:u0xrEI1p0
(  _ゝ )「久しぶりだな」

('A`)「そうっすか? つい昨日ぐらいに会ったような気がするんすけど」

天井の蛍光灯が焼けるような音を出しながら輝いている。
光の下、兄者は座っていた椅子を後ろに蹴り飛ばすと、ゆっくり立ち上がって腰に差していた銃を引き抜いた。
その動作が、煩った哺乳類のようで少し滑稽だ。

胸に穴。だが、それだけじゃない。

('A`)「なんすか、その左腕は」

腕は、ほとんど形を残していなかった。
何か、薄汚い雑巾みたいな破片がぶら下がっているばかりである。
非常にゾンビっぽい。

(  _ゝ )「ハンデだ。お前相手に両腕を使うのは勿体ない」

ああそうですか、マータイさんが喜びそうなエピソードですね。

('A`)「二度死んだ輩からハンデを頂けるとは、光栄です」

(  _ゝ )「フン」

鼻を鳴らして嗤う兄者さん。

843 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:11:48.61 ID:u0xrEI1p0
('A`)「ブーン、下がってろ。
    お前が死んだら話にならん」

DATが無事見つかるまでは、ね。

(主^ω^)「お……」

ブーンが室外に出て行くのを確認し、再び兄者さんに振り向く。

('A`)「なんか、今更プライドでもあるんすか?
    今、この瞬間にでも俺か、或いはアイツを撃てばよかったのに」

(  _ゝ )「支配者……誰かの上に立っている時の感覚が抜けない。
       背を撃つ卑は、自らの名声を地に落とす」

('A`)「そんなもんすかね。
    で、どうです? 支配者から腐った狗に成り下がった気分は」

(  _ゝ )「変わったな、お前」

('A`)「それ、よく言われます。
    そんなもんすよ。狂人が、一定の人格を持っていたらそれこそ笑いぐさでしょうに」

(  _ゝ )「その饒舌加減、俺は嫌いじゃない」

('A`)「そりゃどうも」

846 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:12:38.48 ID:u0xrEI1p0
互いに、銃を相手に向けないまま対峙。
蛍光灯の音、呼吸音、空気の音さえもやけに耳障りだ。

(  _ゝ )「お前はどれほどの腕を持っているか、見せてもらおうか」

('A`)「冗談。あなたの足許にも及びませんよ。
    もしも、あなたが生きていたらね」

緊張の糸が張り詰めた空間で、最早一指動かすのも難しい。

(  _ゝ )「お前は何を望む? 何を望んで……その男を助けようとする?」

('A`)「できれば教えてもらえませんかねえ。こいつの素性を。
    あなた、敵方なんだからある程度は知っているでしょう?」

(  _ゝ )「俺たちは悪役。そして、そいつは正義の味方、それだけだ」

('A`)「なるほど。
    俺もできれば、悪役希望っすけどね」

蛍光灯が一際大きな音をたてて点滅した。それをトリガーと認識する。

俺は横に走りながら、彼に向けて銃を掲げた。

849 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:13:38.25 ID:u0xrEI1p0
数度の発砲、
それから、転がっていた大き目の棚の影に滑り込む。
我ながら華麗に決まったもんだ。ショー的には成功。

だが彼は生きている。あの程度の銃弾が当たる相手じゃない。

(  _ゝ )「お前もこちら側に来ればいい。
       最高の悦びを得られるぞ」

('A`)「一匹狼を知らないでしょ。いつも団体行動だったアンタは」

彼が近づいてくる前に飛び出し、更に数度発砲。
打ち返してくる弾丸には、なんとか当たらずに済んだ。
そのまま走って、今度はひどく豪勢なテーブルを盾にする。

('A`)「誰の指図も受けず、ただ殺したいときに殺せるのはいいもんすよ」

(  _ゝ )「天国にふさわしい感情だ」

勝算があった。
それを実行するのに必要なのは、ミジンコほどの度胸。

決断を迫られた。

(  _ゝ )「俺に勝てると思うか?」

('A`)「思うっすよ 狂ってるから」

852 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:15:14.93 ID:u0xrEI1p0
上だ。
決断、そして天井に向けて発砲。
大きな意味はない、ただ、そちらに気を少しでも向けてくれればいいと思った。

相手の動向を見ている暇はない。
そのまま転がり出て、兄者の姿を探す。
瞬後に確認、膝射のような体勢で撃ち込む。

銃声が重なった。
流石兄者さん、反射速度は並じゃない。

つーか耳たぶいてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

(  _ゝ )「……お前、ここまで強かったか?」

苦しそうな呻きを聞きつつ、俺は立ち上がる。
そして兄者さんは、バランスを崩して倒れ込んだ。
足首を狙った一撃は見事命中。火事場の馬鹿力って、実際存在するんですねー。

('A`)「片腕を失うと、平衡感覚が失われるってマンガで読んだことがあるんすよ」

(  _ゝ )「ほう」

('A`)「動きがおかしかったすからね、兄者さん。
    照準すら定まっていなかった、と。よくわからないっすけど。
    トレースした技量じゃまともに対応もできなかったってことでしょ?」

(  _ゝ )「それは……不覚だった。
       しかし、それでもお前の勇気は尊敬に値する」

854 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:16:35.26 ID:u0xrEI1p0
('A`)「その左腕、あなたが死んだときにはまだ壊れてなかったっすよね?」

(  _ゝ )「……」

('A`)「何の葛藤の跡ですか? まぁ、大体想像がつきますけど」

つまり、あれだろ?
そうやって左腕を自分で撃ちまくることで、正気に戻ろうとしたんだろ?
正気なんてもともと、ありゃしねえのに。

(  _ゝ )「トレースした意識、及び記憶の最後の反抗だ」

('A`)「まぁ元が実力者っすからねえ、低頭して生きるなんてご免だったんじゃないすか?」

(  _ゝ )「昔を思い出したんだ、この人格は」

('A`)「へ?」

(  _ゝ )「そして今もなお、反逆を試みている」

兄者さんは銃を手に取ると、それをじぶんの後頭部にあてがった。

(  _ゝ )「お前に殺されるまでもないと、身体中の何もかもが叫んでいるよ」

爆音を轟かせた銃弾は、兄者さんの頭の中身を床一面に思いっきりぶちまけた。

856 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:17:44.27 ID:u0xrEI1p0
死体を見つめるも一興。
どーせなら自分の手で終わらせたかったが、兄者さんのことだ、仕方あるまい。

('A`)「……ブーン!」

(主^ω^)「お?」

ひょい、と顔を出すブーン。

('A`)「終わった」

(主^ω^)「わ、わか……おぉぉおぉぉぉおぉぉぉ」

死体を発見して元気よく吐瀉。
さっき十分吐いただろうが。

('A`)「さあ、問題はDATだ」

(主^ω^)「お……多分このあたりにあると思うお」

('A`)「どんな形をしている?」

(主^ω^)「世界によって違うからわからないお」

('A`)「クソの役にも立たないな」


860 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:19:09.84 ID:u0xrEI1p0
とりあえず捜索。
床に這い蹲り、それっぽいものを探す。
本棚の中、机の引き出し、椅子の下等々。

唯一ある窓の傍に寄ったとき、ふとした違和感に包まれた。
見下げるとそこに、どす黒い塊。

……これか?

('A`)「おい、ブーン」

拾い上げてそれをブーンに見せる。
つーかなんだこりゃ。

DATってドブネズミの死体のことだったのか。

(主^ω^)「そ、それだお!」

マジかよ。もうちょいマシなもんにならなかったのか。
まぁ、この世界を象徴しているような気もするが。

(主^ω^)「よかった……無事発見できたお」

……うん。
じゃあ。
よし。

殺そうか。

863 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:20:26.95 ID:u0xrEI1p0
だが、そうしようとした瞬間だった。
突如、階下から迫り来る誰かの足音が聞こえた。
それと伴う、野良犬のような猛り声。
それも複数。

ここで邪魔が入るのか。

現れた奴を見て、俺は少々途方に暮れてしまった。

川 ゚ -゚)「ああああああああああああああァァ!!」

クーさんだった。
それともう一人、可憐な少女。

……んー?
なんで怒ってるんだ?

・・・

・・



□□□□□□□□□□

867 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:21:31.37 ID:u0xrEI1p0
scene C-1

その憎悪は途方もなく増長していた。
クーの双眸がドクオを貫く。
対してキィ、そしてブーンは状況すら上手く把握できない。

いや、ドクオとてクーが何に対して負の感情を滾らせているのか、理解できずにいた。

川 ゚ -゚)「ドクオ。お前、なのか?」

('A`)「何がです?」

クーが銃を抜き放ち、それを未だ立ち尽くすドクオに向けた。
ドクオはただ困惑するばかりである。
手に持ったネズミの死体をただ弄ぶばかり。

クーが静かに告げた。

川 ゚ -゚)「弟者を殺したのは、お前か?」

ドクオはしばらく逡巡していた。
懸命に記憶の腐植土を掘り返し、やがて――

頷いた。

('A`)「ああ、あの隅っこで震えてたのは、弟者さんだったんすか」

868 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:22:32.91 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「貴様アアアアアアアァァァァ!」

クーが金切り声をあげ、そのまま引き金を幾度も引いた。
放たれる弾丸。
だが、憤怒のためにそれらはドクオの身体に命中しない。

対するドクオは冷静なものである。
「おっかねえ」と呟き、ひとまず物陰へと退散した。

从'ー')「クーさん!」

キィの悲痛な声も届かない。
たった一つ、彼女の理性を支えていた柱は崩れたのである。
バーサーカーと化したクーは、ドクオが消えた巨大なテーブルを憎々しげに撃ち続けた。

誰に対する怒りだろうか。
純粋にドクオに対する怒りなのか、それとも、
最後の機会を逃した自分への怒りの発散なのか。
誰にも知れない。

从'ー')「あれは……間違いない、DATだ」

キィは一人呟いていた。
そして、事態を震えながら眺めていたブーンを見やる。

从'ー')「あなたは、もしかして?」

(主^ω^)「お前、もしやフォックスの手下かお!?」

872 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:23:37.92 ID:u0xrEI1p0
お互い、沈黙していた。
敵同士である、ならば。
目の前で行われている殺し合いを、自分たちも演じなければならないのか。

時を置いてドクオが言った。

('A`)「何をそこまで怒る必要があるんすか? どーせまた、闇の世界で一緒になるんでしょうが」

从'ー')「闇は!」

殺人機械=クーは言葉を発さない。
キィが代弁する。

从'ー')「闇は決して二人を引き合わせてくれないの!
     これは、DATがもたらした最後のチャンスだったんだよ!」

('A`)「へぇ、そうか。
    そりゃあ――逃すクーさんが悪い」

クーが走り、跳躍。
机の上に飛び乗ると、そこに隠れるドクオに向けて発砲。
ドクオが横に転がって避ける。

('A`)「DATってさぁ、想いの力ってのを込めればいいんだよなぁ!?」

おもむろに、彼は誰かに尋ねた。

873 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:24:39.20 ID:u0xrEI1p0
(主^ω^)「な、何をするつもりだお!?」

('A`)「使わせてもらう」

(主^ω^)「ちょ……」

('A`)「最初からてめえに渡すつもりなんかなかったっての! バアアアアアアアアアアアアアアアアアアカ!」

笑い声を織り交ぜ彼は絶叫する。
ブーンが唖然と彼を見つめたその目の前を、クーが走り抜ける。

('A`)「ああ、もう! クーさん邪魔っすよ。
    集中できません」

川 ゚ -゚)「ゲス野郎!」

('A`)「最高の褒め言葉っすね!」

ドクオが会心の笑みを浮かべた。
計画は頭の中で練られている。
それはとても簡単で、また、確実なものだ。

('A`)「その姿、弟者さんが見たらどう思いますかね!?」

たった、それだけの言葉。
それだけで――クーの動きが一瞬停止した。
つまり、隙が生じたのだ。

874 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:26:06.96 ID:u0xrEI1p0
銃声。肉を裂く音。
塊が地面に倒れる音。

川 ゚ -゚)「ああ、アァァ」

呻くクーはしかし、立ち上がることができない。
銃は彼方に放られてしまっていた。
それはちょうど、ブーンの足下に。

キィは動けない。彼女の中に葛藤があった。
ドクオを殺したい、という気持ちが先行する一方で、今動けばDATを巻き込んでしまうという憂いもある。
それは結局、彼女を後悔させるに過ぎない感情の入交でしかないというのに。

('A`)「はは、はァ……さて」

悦楽の表情でドクオは手の中のDATを見つめた。

('A`)「俺の望みを叶えてくれよ、DAT。
    俺に普通の生活をくれよぉ……」

だが、
DATは、
答えなかった。

879 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:27:16.61 ID:u0xrEI1p0
('A`)「……」

静寂、絶望の静寂。
直後、狂気へ。

('A`)「どういうことだ!? 俺の、俺の想いは誰よりも強いはず……なのに!」

从'ー')「所詮……」

口元を歪ませたキィの声は、怒りに打ち震えていた。

从'ー')「所詮腐れた魂なんだ! アンタみたいな奴の想いを、DATが受け入れるはずがない!」

心のそこから哮る。
ドクオは押し黙ってDATを見下ろした。
そして次の瞬間、彼は全ての鬱屈を押し殺した笑いに変換した。

('A`)「はは、ははははははははははははははははははははははははははははは。
    そりゃそうだな、俺、今めっちゃ悪役だもんなあ。腐ってるしなあ! ついでに、どうしようもねえクソだもんなあ!
    クズは永劫クズなんだ! 這い上がるなんて幻想でしかねえんだよな! 人並みの幸せも望んじゃだめなんだよな!」

急に脱力した彼は「じゃあ」とキィを見つめる。

('A`)「お前を殺して、俺、正義の味方になるわ」

884 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:28:50.61 ID:u0xrEI1p0
動こうとしたときにはもう、遅かった。
弾けるような音、そしてキィの身体がふんぞりかえり、そのまま頭から地面に落ちた。

川 ゚ -゚)「……? キィ……?」

一部始終を、ただ傍観することしかできなかったクーが彼女の名前を呼ぶ。

从'ー')「え……?」

彼女は自分に起きた事態を最初、理解できなかった。
やがて、ロボットのような動きで額を触り、「痛い」と呟いた。

川 ゚ -゚)「キィ、キィ、待ってろ、いまそっちに……」

這いずり、彼女に近寄る。そしてその手を掴んだ。
すると、弱々しくではあるが、彼女もまた、にぎりかえしてきた。

从'ー')「ごめんなさい、ごめんなさいフォックスさま……わたし、だっと、てにいれられなかったっ……」

川 ゚ -゚)「キィ、死ぬな、死んじゃだめだ! なぁ、別の世界の人間がここで死んでどうする!?
     フォックスが悲しむぞ……何より、私が……」

从 ー )「ごめんね、クー……あれだけえらそうにいったのにね……
    わたし、けっきょくなにもできなか……」

('A`)「はい、俺正義の味方ー! 悪者をたおしたぞー」

彼女の、死に際の言葉はドクオの虚ろな宣言に遮られた。
自分が何を喋ってるのか理解しているのかも定かでない。
まるで、麻薬中毒者のようだ。

885 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:30:06.31 ID:u0xrEI1p0
('A`)「これでー、DATは俺の想いに答えてくれる、そうだよな!?」

ふと、ドクオは後頭部に硬質な何かを感じた。

('A`)「え?」

(主 ω )「……」

('A`)「お、おいおい、ブーン? ヘタレのお前が何で俺の頭に銃をぶつけてるの?
    意味わかんね……」

(主 ω )「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

読経のような低い声。
彼の中で、何かが生じていた。
そしてそれは、彼の指に引き金を引かせる。

一撃。

川 ゚ -゚)「……は、はは……誰か、知らないが少年……」

(主 ω )「……」

川 ゚ -゚)「天国にいたらきっと……成り上がることができた、だろうなぁ」


887 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:31:02.35 ID:u0xrEI1p0
黙りこくったまま、彼はドクオの手から零れたDATを拾い上げる。
直後、世界がぐらりと震動した。

地震ではない。
まるで世界全体――空さえもが揺るぐような、それは躍動に近かった。

川 ゚ -゚)「この世界も、ついに終わるか……少年、はやくそれに想いを込めろ。
     そして、この世界から脱するんだ」

彼はキィの敵なのだろう。
いずれ、フォックスを滅ぼすのかもしれない。
……恨むべきなのだろう、だが、生じた諦念がそれをさせなかった。

聞いていたのか、いなかったのか、少年は彼女に背を向けると、手の中のそれを潰れるほどに握りしめた。

瞬間、光が彼を包む。

川 ゚ -゚)「……」

一縷の涙すら残さず、ブーンは世界から消失した。

川 ゚ -゚)「……弟者」

世界が終わるその時まで、彼女は恋人の名を呼ぶ。

川 ゚ -゚)「何もかもが終わるよ……」


892 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:31:48.51 ID:u0xrEI1p0
川 ゚ -゚)「最後にもう一度、語りたかったなあ……
     なんで、一欠片の幸せも……私たちには与えられないんだろうなあ?」

這いずる。そして、キィの髪の毛に触れた。
柔らかい黒髪。美しかった。

川 - )「キィ……悪いのは私たちなのに……お前は、何も悪くないのに……」

涙を流す彼女の身体は、
ドット単位で世界から欠けていく。
世界が終わると同時に、
彼女もまた、その命の灯火を吹き消した。

・・・

・・





913 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:39:28.13 ID:u0xrEI1p0
(Д゚)「オシマイセイヤー」

/ ・ω・ヽ「そんなこんなで次回予告だぽ」

( ><)「僕たち、本編に登場してないのに出てきちゃっていいんですか!
      わかんないんです!」

(*'ω' *)「ギャラぽっぽ」

( ><)「ちんぽっぽちゃん、意地汚いこと言わないでください!」

( <●><●>)「明日が予備日だということはわかってます」

(*'ω' *)「ゲリラっら」

( ><)「ええと、もしかしたら誰かがゲリラ投下するかもしれないんです! 楽しみなんです!」

( <●><●>)「明後日には、◆ILuHYVG0rgさんによる、
      『ブーンが心を開くようです』編が投下されることはわかってます」


920 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:40:48.91 ID:u0xrEI1p0
(*‘ω‘ *)「わくてっか」

(Д゚)「タノシミセイヤー」

/ ・ω・ヽ「ところで、心を開くって具体的にどうすることだぽ?」

( <●><●>)「ちんぽっぽちゃんが実演してくれるそうです」

(*‘ω‘ *)「みかんっん!」

(;><)「あ、それはとっておきのミカンなんです! 返してください!」

(*‘ω‘ *)「うまぽっぽ」

(;><)「キャー!」

(Д゚)「……ホンノウニチュウジツセイヤー」

( <●><●>)「全然違うということは勿論、わかってます」

/ ・ω・ヽ「ま、そんなわけで明日、そして明後日もどうぞ楽しみにしていてくださいぽ」

(*‘ω‘ *)「ごちぽっぽ!」

( ><)「ううう……」

924 ホタテ養殖(dion軍) 2007/03/26(月) 23:44:58.84 ID:u0xrEI1p0
読んでくれた人、支援してくれた人ありがとうございました。

合作を最後まで楽しんで頂ければ、参加者としてこれ以上の幸せはございません。


第18世界へ


HOMEに戻る ニュー速VIPのブーン系小説まとめ
Copyright © 2008 Boon Novel. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system