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【合作】( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです

第20世界  妄想現実◆SOBAYAmrcU

4 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 20:56:29.10 ID:vYxvDT6W0


そう、あれからどれくらいの時が立ったか…
思えば、ついこの間のようにも感じられます

昔、世界から世界へと旅をする少年がいました
自分の大切なものを守るために、たった一人で旅をした少年です
彼が探す物がこの世界に訪れたとき、確かに運命というものが、少しだけ流れを変えたように思います

あるいは
今もなお、その流れは続いているのやも知れません

そうですね、私もすべてを知っているわけではありませんが…
今日は、その少年の話をいたしましょう


6 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 20:57:28.40 ID:vYxvDT6W0
雪の降る空。
広大な白い大地。
その大地を、数人の男達が歩いている。

それを見つめる影二つ。

(主^ω^)「数は6人、1個分隊だお」
(^ω^メ)「そうか…よし。お前一人でやってみろ」
(主^ω^)「お?…了解だお!」

駆け出すのは、まだ顔に幼さを残す少年だった。
それでもその目は少年のものではない。
使命感がその目に静かな光を灯している。

この世界にばら撒かれた、DATの業を払うため。
そして、自らの世界を救うため。

2002年、凍土と純白の地で。
名無しの少年は、このホルダーのいる世界で、戦っていた。


10 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 20:58:34.61 ID:vYxvDT6W0



( ^ω^)ブーンが世界を巡るようです



 『 IN ( ^ω^)の妄想が現実になったようです -4年前- 』





13 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 20:59:51.93 ID:vYxvDT6W0
何かの、声がする。

「…加減…きろ…」

どこかで聞いたことのあるような声。
自分のいる揺り篭が、穏やかな風に揺られているような、そんな心地よい感覚。

「…仕方ないか…」

意思のある響きは言葉のようで、それに引っ張られて、水面に引き上げられるように体が軽くなっていく。
心地よい浮遊感に、心まで一緒に浮き上がりそうになる。
この声を聞きながら揺らぎ、心地よく漂っていられるなら。

たとえ世界が滅んだって―――

「…お?」

世界が、滅ぶ。
靄がかかったような頭の中で、鮮明に映し出されるイメージ。
それは音もなく、地割れも豪火も雷雲もなく、ただ静かに、闇に覆われる世界の断末魔。

世界はみんなのものだった。
自分のもので、友達のもので、父のもので、名も知らぬ人々全てのものだった。
それが、たった一人に滅ぼされる。

自分は別に、正義の勇者様なんかじゃない。ただの一般人で、しかも子供だ。
それでも、一人の人間が勝手に世界を滅ぼすなんて、そんな理不尽は許せない。
もう滅んで、まだ手遅れでない世界。
それを救う最後の希望を、必ず自分が。

16 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:01:11.19 ID:vYxvDT6W0
(主^ω^)「うほぉおぉぉぉっ!?」

突然訪れた鋭い衝撃から逃れるように、身体が跳ね上がる。
とりあえず自分を襲うモンスターの類はいない。
そういえば、ここはどこだろう。ぼやけた焦点をあわせ周りを見回すと、見覚えのない家具が目に入る。

窓から差し込む白い光は、白く揺らいで滲んでいるようだった。
その光がゆるやかに部屋を染めているのを見て、ようやく何故自分がここにいるのか思い出す。

(^ω^メ)「起きたか?」
(主^ω^)「あ…あぁ…おはようだお、ホライゾン」

時計の針は12時をすぎている。
なんとなく理解した。どうやら自分は真昼間から寝ていたらしい。
目覚めたばかりの、まだ覚醒しきってない感覚の中で、胸の1点だけが悲鳴をあげている。

(主^ω^)「あいたた…またツボついたのかお?」
(^ω^メ)「いつまでも寝てるお前が悪い」

少年を起こしたのは、頬に傷のある男だった。
胸のツボをつき、無理やり目覚めさせる。彼らのいつもの光景。

(^ω^メ)「ほら、行くぞトロワ」
(主^ω^)「あいおー」

トロワという名は、少年の本当の名前ではない。
それは少年の先を歩く男、ホライゾンがつけた名前だ。
名前を奪われた少年は今、ホライゾンと行動を共にしている。


19 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:03:05.16 ID:vYxvDT6W0
二人は、朽ち果てた廃ビルの廊下を静かに歩いている。
欠伸をしながら歩くトロワを見ながら、ホライゾンが思い出したように口を開いた。

(^ω^メ)「少しうなされていたぞ。悪い夢でも見たか?」
(主^ω^)「いつもの夢だお…何回見ても慣れないお、あの夢は」
(^ω^メ)「ああ…お前の世界の滅ぶ様、か。早く帰ってやらないとな」
(主^ω^)「おー。そのために戦ってるんだお」

ホライゾンは、初めてトロワと出会った時のことを思い返した。
連れ去られた恋人を何とか助け出して、必死の思いで逃げている途中。
その途中で、倒れている少年――トロワを見つけたのだ。

少年は、名前を思い出せないといった。
最初は捨てていこうかと思ったが、少年の持っていた宝石のような物を見て、そうもいかなくなった。
それは、見覚えのあるものだったからだ。

(^ω^メ)「お前がDATを持ってたときは驚いたっけなぁ」
(主^ω^)「なんだお突然?」
(^ω^メ)「お前を拾ったときのことを思い出した」
(主^ω^)「それなら、驚いたのはこっちだお。あんたがDATのことを知ってるとは思わなかったお」


26 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:05:53.95 ID:vYxvDT6W0
そう、ホライゾンという男は、DATの存在を知っていた。
この世界に存在しないはずの物体が、その時すでに存在していたのだ。
正確に言えば、DATを知っていたのはホライゾンの恋人であるペニサスという女性だが。

名無しの少年のいた世界を滅ぼしたフォックス。
フォックスの送った手先は、少年よりも早くこの世界にたどり着いた。
そしてその手先は、この世界のラウンジという組織に自分を売り込んだのだ。

DATは想いを形にする力…いってみれば、願いを叶える力を持っている。
当然それは万能ではないが、その恩恵は大きい。
組織の力をもってすれば、DATといえど探し出すのにそう時間はかからなかった。

30 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:08:04.18 ID:vYxvDT6W0

そうして組織は、DATからあるものを得た。
この世界の水準を大きく越えた知識を。
おぼろげなそれを、確かな技術にすることが出来る科学者達が、組織には何人か存在していた。

DATでもたらされた知識は組織の研究を大幅に促進させ、様々な物が作られた。

機械仕掛けの四足獣。
纏った者の身体能力を強化する服。
シルエットアームと呼ばれる、鋼鉄の義体。
この世界に存在する、ホルダーと呼ばれる能力者の力を取り出す技術に、それを他者に移植する技術。

それらは全て、DATから得られた知識を元に組み立てられた技術だ。
その研究に大きく関わったのが、組織からホライゾンの手によって助け出された、ペニサスという女性だった。



33 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:11:16.59 ID:vYxvDT6W0
(主^ω^)「…まさか僕より早く、この世界に敵が来てたなんて思わなかったお」
(^ω^メ)「ああ、運が悪かった。そいつのせいで色々厄介なものを作られたからな」
(主^ω^)「けど、その厄介なもののおかげで、僕の事情を信じてもらえたし、あんたは奴らと戦えるお」

ホライゾンは肩をすくめる。
名無しの少年、トロワ。ホライゾン。そして、昼飯を用意しているであろうペニサス。
彼ら三人は、フォックスの手先が取り入った組織、ラウンジと戦っていた。

今は普通の服を着ているホライゾンだが、戦いの際は違う。
ペニサスと逃げる際に奪取した強化服のプロトタイプが彼の武器。
それ故、ラウンジの人間にはこう呼ばれた。

(主^ω^)「紅夜叉ホライゾン。あの強化服もDATのせいで出来たんだお」
(^ω^メ)「別に欲しくはなかったんだがな」

ホライゾンは小さく笑い、曲がり角を曲がる。
角の先にある、隠れ家にしている廃ビルの中で唯一窓のわれていない部屋が、彼らの食堂になっていた。

('、`*川「あら、おはよ」
(^ω^メ)「ん」
(主^ω^)「おはようだお、ペニサス」

拾ってきた石油ストーブで暖められた部屋で、ペニサスがパンを切り分けている。
その上にはハムとレタス。今日はご馳走らしい。

(主^ω^)「おお。これどこにあったんだお?」
('、`*川「久しぶりに買い物にいってきてね」
(^ω^メ)「おいおい、危ないから勝手に…」
('、`*川「けどいい加減いいもの食べたかったでしょ?」
(^ω^メ)「そりゃそうだけどな…」

38 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:14:43.26 ID:vYxvDT6W0

ホライゾン達がトロワを拾ってから、すでに2年が経過している。
彼らはその間、何度か隠れ家を変えながら生活していた。

(主^ω^)「そろそろここも感づかれる頃かお」
(^ω^メ)「そうだな…」
('、`*川「いい加減定住したいわねぇ」

久しぶりの満足な食事を終えて、三人は安物のコーヒーを飲んでいる。
数日前にラウンジの小さな基地を潰した際、今隠れ家にしている廃ビル近くまで捜索隊が出ていたのを知った。
そろそろ敵が来るかもしれない。

(^ω^メ)「場所を移す前に派手に動くか…」
(主^ω^)「お?やるのかお?」
(^ω^メ)「ああ、この辺で一番でかい基地を叩く」
(主^ω^)「DAT…あると思うかお?」
('、`*川「そんなに焦らなくても、ちゃんと望んだ時間軸に帰れるわよぅ」

トロワは今でこそ落ち着きを持っているが、最初のうちはがむしゃらにDATを探していた。
時間がたてばたつほど、自分の世界を救うのが手遅れになると思ったからだ。
だがペニサスが言うには、そうでもないらしい。



39 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:16:04.54 ID:vYxvDT6W0

ペニサスはDATの恩恵を存分に受けた科学者の一人。
DATについてもそれなりに詳しい。
使うものの意思さえあれば元の世界に帰る際、帰りたい時間軸に帰れるはずだと、彼女は断言していた。

(主^ω^)「ペニサスの言うことは信じてるけど、早く取り返すに越したことはないお」
('、`*川「ま、そうね。何に使うかわかったもんじゃないし」
(^ω^メ)「そのDATの在り処も、でかい基地ならわかるかも知れん」
(主^ω^)「たしかに…よし、いっちょやるかお?」
(^ω^メ)「ああ、やってやるさ」

ホライゾンとトロワは軽く拳をぶつけ合う。
戦いなどとは無縁だった少年は、今や立派な戦士の顔になっていた。



44 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:20:22.17 ID:vYxvDT6W0

彼らがいるのはロシアの地。
吹きすさぶ凍嵐に隠れるように、一台のスノーモービルが走っていた。

(主^ω^)「作戦は?」
(^ω^メ)「正面から乗り込んで、まずは司令室を叩く」
(主^ω^)「いつもどおりってことかお」

スノーモービルは一直線にラウンジの基地を目指す。
それは、製薬会社の研究所に偽装され、人里はなれた場所にあった。
目の前に基地のフェンスが見えてきても、スノーモービルは減速しない。

(^ω^メ)「いくぞ!」
(主^ω^)「合点!」

警備の兵士がホライゾン達に気づいた。
銃を構えようとする兵士をスノーモービルで跳ね飛ばし、基地の敷地内にそのまま突っ込む。
雪原からコンクリートの地面に乗り上げ、スノーモービルが転倒する瞬間、二人は勢い良く飛び出した。


46 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:20:57.28 ID:vYxvDT6W0

兵士「てっ、敵襲ー!」
兵士「ホライゾンとトロワだ!」
(^ω^メ)「はっ!」

近くにいた兵士二人を、流れるような動きでホライゾンが無力化する。
トロワはその隙に基地の正面入り口をC4爆弾で吹き飛ばし、突入口を開いていた。

(主^ω^)「正面クリア!」
(^ω^メ)「俺は地下にいく!」
(主^ω^)「了解、30分後にここで合流だお!」
(^ω^メ)「よし、いくぞ!」

二人の動きは素早かった。
敵兵士が事態を把握する前に基地内部に潜入し、司令室を探す。
何度も繰り返してきた手順。
ホライゾンとトロワ、二人は互いを完全に信頼していた。



50 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:24:03.82 ID:vYxvDT6W0
兵士「えっ、敵!?」
(主^ω^)「やっ!」
兵士「ぐぁっ!」
兵士「DAT使いのトロワ!?まさかホライゾンが…!」
(主^ω^)「せい!」
兵士「うぐっ…!」

廊下で談笑していた兵士二人を、ホライゾン仕込みの武術で圧倒する。
トロワはDATを使うホライゾンの相棒として恐れられていたが、兵士如きにDATを使うまでもない。
使うとしたら、敵のホルダーが出てきたときだ。

(主^ω^)「1階には何もないかお。次は2階…」

倒れた兵士からサブマシンガンを奪い、トロワは階段を駆け上がる。
この2年で、すっかり戦いに慣れていた。
自分の世界を救うために、名無しの少年は戦士にならねばならなかった。


53 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:25:59.04 ID:vYxvDT6W0

兵士「いたぞ!こっちだ!」
兵士「撃て!」
(主^ω^)「っと、さすがに結構な数がいるお…!」

階段を上った曲がり角の向こうに、敵の兵士が数人、銃を構える。
およそ1個分隊規模、トロワは影に隠れ、腰にかけたウエストポーチに手を入れる。
取り出したのはフラッシュバン。

(主^ω^)「よっ!」

口でピンを引き抜き、角の向こうに放り投げる。
身を隠してからわずか2秒たらず。
手榴弾を投げようとしていた兵士の顔が、足元に転がったフラッシュバンに青ざめる。

兵士達の目を閃光が焼いた。
咄嗟に投げた手榴弾はトロワのいる場所を大きく通り過ぎ、廊下の向こうで爆発する。

(主^ω^)「ちょろいお!」

目を押さえうずくまる兵士を通り過ぎ、トロワは廊下を駆ける。
突入からまだ10分しか経っていなかった。



59 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:28:10.08 ID:vYxvDT6W0
(^ω^メ)「ぬあっ!」

地下では、ホライゾンが司令室の扉をぶち破っていた。
蹴りの一発で地面と平行に飛んだ分厚い扉は、司令室の中で待ち構えていた兵士に直撃する。

(^ω^メ)「どうした、ホルダーはいないのか?」

警戒もせずに中にはいるホライゾンを、兵士達が取り囲む。
トリガーは引かない。皆、ホライゾンの力を知っていた。
いくつかの基地を、たった二人で潰してきた男。
そこらのホルダーを越えさえする戦闘力を持つ彼に、小銃ひとつでは立ち向かえない。

(^ω^メ)「ならばこちらから行くぞ!」

それでも、ホライゾンは向かってくる。
慌ててトリガーを引いても、弾丸は味方を貫くだけだった。
強化された脚力はもとより、複雑な機動で兵士を翻弄するホライゾンに、ただの一発も弾丸は当たらない。

瞬く間に制圧された司令室を出て、ホライゾンは上階に向かう。
予定より随分早く終わりそうだ。



62 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:31:06.38 ID:vYxvDT6W0
吹き飛ばされた正面入り口。
突入からまだ22分しか経っていないが、二人は合流していた。

(主^ω^)「下は?」
(^ω^メ)「何もなかった。そろそろ帰ろう」
(主^ω^)「了解。でかい基地なのに拍子抜けだお」

二人は基地の敷地内にある車庫に向かい、新しいスノーモービルを手に入れる。
ついでに頂いてきた食料や燃料を積み込み、エンジンをかけた。
スノーモービルは動き出さない。

(^ω^メ)「…なんだ、今まで隠れてたのか?」


63 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:31:49.31 ID:vYxvDT6W0

車庫の出口に、一人の男が立ちふさがっていた。
部下も連れずに仁王立ちする姿から、ホルダーだと推測できる。

敵ホルダー「えぇい、うるさい。人の基地で好き勝手しやがって、逃がさんぞ!」

叫び声と共に、敵ホルダーは駆ける。
常人では考えられない凄まじい速度。
身体強化系のホルダー。

一人で向かってくることから、自分の能力への自信がうかがえる。
たしかに、並よりは上の能力だった。身体強化の度合いは常人の4.5倍はある。
それでも、ホライゾンとトロワを二人相手にするには足りない。

(主^ω^)「DATがどこにあるか知ってるかお?」
敵ホルダー「知っていても教えると思うのか!」
(主^ω^)「僕にやられてから言えお、そんなことは」

向かってくるホルダーをトロワが迎え撃つ。
ホライゾンは止めなかった。



68 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:34:56.99 ID:vYxvDT6W0
敵ホルダー「DATが使える程度の人間がホルダーに勝てるつもりか!?」

ホルダーは駆け込む勢いをそのままに、トロワに対して蹴りを放つ。
ただの人間であるトロワには避けられないはずの一撃は、その身を穿つことはなかった。
蹴り足がトロワに触れるその瞬間、トロワの身体が地を這うように横にずれる。

(^ω^メ)「あまり侮ってはいけないな。そいつは…」

トロワが手にもつそれは、一見懐中時計のように見えた。
それはたしかに懐中時計。 
長い鎖の両端に、時計ともう一つ、DATを収めたケースがある。
避ける瞬間だけ、そのDATが光っていたのをホルダーは見た。

(^ω^メ)「俺より強いかもしれん」

ホライゾンの表情は、自身に満ち溢れている。
自分の愛弟子を誇る師の顔だった。
しかし、言った手前で思いとどまる。

(^ω^メ)「いや、それは言い過ぎか。俺のほうが強いだろ…常識的に考えて…」


72 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:38:02.39 ID:vYxvDT6W0

避けたあとは、やはり鍛えているとはいえ常人の速度。
それでも、ホルダーの攻撃は当たらなかった。
拳が、つま先が、肘が。当たる寸前、DATが光る。

敵ホルダー「こっ…この!」
(主^ω^)「…勝機」

当たるはずの攻撃が当たらない。
苛立ったホルダーの大振りを、トロワは見逃さなかった。
右手に時計、左にDAT。
その間にある鎖が、ホルダーの手首に絡みつく。

(主^ω^)「キャッチだお!とうっ!」

絡めとった手首を軸に、ホルダーの身体は宙を舞った。
常人の4.5倍の力で繰り出された攻撃、その力にトロワの力を加え、ホルダーの身体が回転する。
空気のはいったビニール袋を叩いたような、乾いた音。
受身もとれずに地面に叩きつけられた体が、雪埃を散らせた。

敵ホルダー「お…お…のれぇ…!」
(主^ω^)「手加減はしたお。さぁ、DATの在り処を教えるお」

トロワはDATの懐中時計、自らの武器を懐に戻す。
取り出した際には狂っていなかった時計の針は、数十秒ほど早まっていた。



78 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:41:05.32 ID:vYxvDT6W0
敵ホルダー「うっ…ぐぅ」
(主^ω^)「無駄なあがきはやめるお。まだしばらく動けないはずだお」

ホルダーは呻きながらも手を伸ばし、トロワの足首を掴もうとする。
ズボンの裾を握りはしたが、トロワはすぐに足を引っ込めた。
力なく落ちたホルダーの手を踏みつけ、トロワは地に伏せたホルダーに対し、サブマシンガンの銃口を向ける。

敵ホルダー「DATの在り処が知りたいのか…?」
(主^ω^)「知っているなら、撃たれる前に教えたほうが身のためだお」
敵ホルダー「……アスキーアートという街から…少し外れた研究所だ」
(主^ω^)「そうかお」

表情を変えずに呟き、トロワは踏みつけていた手から足を退けた。
かわりに、ホルダーのこめかみを思いっきり蹴りつける。
首から嫌な音をたて、ホルダーは気を失った。

(^ω^メ)「やったな」
(主^ω^)「楽勝だお」
(^ω^メ)「ついに見つかったじゃないか」
(主^ω^)「ん…まぁ、とりあえずさっさと帰るお」
(^ω^メ)「?…そうだな」

感動の薄いトロワが少し意外だったが、ホライゾンは言われるままにスノーモービルを出す。
隠れ家に帰るまで、トロワはずっと黙っていた。


82 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:44:32.21 ID:vYxvDT6W0

ホライゾンとトロワが去っていった基地の車庫。
物陰に隠れるように一部始終を見ていた男がいた。

男「大丈夫か?兄者」
敵ホルダー「…痛ぇ。殺す気だったんじゃないだろな」

気を失ったはずのホルダーが起き上がる。
首をさするホルダーは、差し伸べられた手をとって立ち上がった。
ホルダーの隣に立つその男は、声こそ違うが先程トロワに倒されたホルダーと瓜二つ。

( ´_ゝ`)「時に弟者。俺の演技はどうだった?」
(´<_`  )「まぁまぁだな」
( ´_ゝ`)「つーかお前、もっと近づいとけよ。ちょっと出力足らなかったぞ」
(´<_`  )「あんまり近かったらバレるだろう。殴られたくないぞ」




83 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:45:04.41 ID:vYxvDT6W0

兄者と弟者。
ラウンジの幹部、ジョルジュ長岡直属の部下である、双子のホルダー。
彼らの能力はリンクと呼ばれるものだ。

二人が近くにいればいるほど、身体強化のランクが上がる。
もし二人が全力で向かってくれば、基地は無事だったかもしれない。
そうしなかったのは、二人を倒すのが目的ではなかったからだ。

( ´_ゝ`)「で、ちゃんと動いてるか?」
(´<_`  )「バッチリだ兄者。ほれ」

弟者がノートパソコンを差し出す。
モニターには、画面中央から離れていく光点があった。
ホライゾンとトロワの乗るスノーモービルだ。

( ´_ゝ`)「発信機つけたのがズボンの裾だからな…途中で落ちないよな」
(´<_`  )「大丈夫だろ、たぶん」
( ´_ゝ`)「しかし、こんな仕事はぜーんぶ俺らにやらせやがる」
(´<_`  )「うむ。ジョルジュの野郎、事故でも起こさんもんかね」



90 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:48:40.67 ID:vYxvDT6W0

その日の晩は、昼に続きご馳走だった。
かなり長い間使った廃ビルには、外からはわからないが、もうすっかり生活の匂いが染み付いている。
世話になった隠れ家に別れを告げるように、贅沢に食料を消費した。

('、`*川「はぁ…お肉なんて久しぶり」
(^ω^メ)「ペニサス、俺の分まで食べるんじゃないぞ」
('、`*川「わかってるわよぅ」
(主^ω^)「…くはーっ!腹に染みるおー」
(^ω^メ)「トロワ、知ってるか?未成年は飲酒禁止だ」
(主^ω^)「ロシアではウォッカは水と同じって言ったのはあんただお」
(^ω^メ)「…言ったか?そんなこと」

ホライゾンはトロワにならい、ウォッカの瓶を傾ける。
焼きたての肉を流し込んだウォッカが、体を温めた。

(^ω^メ)「言ってないだろ…いや、言ったかな?いや…んん?」



97 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:52:18.99 ID:vYxvDT6W0

('、`*川「そういえばトロワ、DATのある場所はわかった?」
(主^ω^)「ん…まぁ」
(^ω^メ)「アスキーアートの外れにある研究所だそうだ」
('、`*川「やっと見つかったんだ?良かったじゃない、トロワ!」
(主^ω^)「ああ、良かったお。ようやく見つかったお」
('、`*川「お祝いにお肉あげるわ」
(主^ω^)「うわ微妙」
('、`*川「なによ。じゃ、あげない」
(^ω^メ)「ははは、太っても知らんぞ」
(主^ω^)「…」

笑いあう三人の中で、トロワだけは笑みに迷いを見せていた。
トロワとホライゾンの目が合う。
ホライゾンは、困ったように軽く息をついた。

(^ω^メ)「さて、明日にはここを出るからな。もうそろそろ寝たほうがいい」
('、`*川「もう?けど、移動は大仕事だしね。寝よっか」
(主^ω^)「あいおー。僕も部屋に戻るお」




99 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:54:52.61 ID:vYxvDT6W0

今頃はペニサスが食堂を片付けているだろう。ホライゾンも自分の部屋へ帰っていった。
トロワだけが部屋に帰らず、廃ビルの屋上で夜風に当たっている。

(主^ω^)「……」

風の弱い、いい夜だった。
毛布に包まり見上げる月は、ずっと昔、自分の世界で見たものと変わらない。
月に重なって、仲間二人と過ごした時間が見えていた。

(^ω^メ)「眠れないか?」

首だけ回して、声がしたほうを見る。
屋上の入り口で、ホライゾンは夕食時のような困った表情を浮かべていた。
ウォッカの残った瓶を煽りながら、ホライゾンはトロワの横に座った。

(^ω^メ)「帰れるな、お前の世界に」
(主^ω^)「…うん」
(^ω^メ)「どうした。もっと喜べよ」
(主^ω^)「ああ…わかってるお。やっと次に進めるお」
(^ω^メ)「ならもうちょっと嬉しそうな顔をしろ」

ホライゾンが軽く小突いてくる。
トロワも肘で軽く小突き返し、小さく笑った。
吐いた息が風に乗って流れていく。



103 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 21:57:32.98 ID:vYxvDT6W0

(主^ω^)「ただ…2年も一緒にいた仲間を置いてくなんて僕には…」
(^ω^メ)「おいおい。自分の世界を助けるんだろ?はやく帰ってやれよ」
(主^ω^)「ペニサスは、望んだ時間に帰れるって言うお。それなら、あんたの戦いが終わってからでも…」
(^ω^メ)「お前が本気でそう思うなら何も言わんが、いらん気遣いなら勘弁だぞ」
(主^ω^)「でも…」
(^ω^メ)「正直な、俺が戦ってるのは半分はお前のためだ。ラウンジからDATを取り上げるって意味もあるにはあるが」
(主^ω^)「ペニサスのためじゃないのかお?」
(^ω^メ)「もう半分はそうさ。けど、逃げ回るだけなら戦う必要はない。もちろんいつかは奴らをぶっ潰してやるが、今はまず仲間を助けたい」
(主^ω^)「ホライゾン…」
(^ω^メ)「世界を救う手伝いだ。一度はやってみたいだろ?それに…」

ホライゾンは拳を突き出す。

(^ω^メ)「お前は俺の相棒だ」
(主^ω^)「…ああ。ああ、そうだお」

トロワはそれに、自分の拳を軽くぶつけた。



106 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:01:00.58 ID:vYxvDT6W0
翌日。朝早くから引越しの準備が進められていた。
ペニサスの指示に従い、最低限必要なものが軽トラックに積み込まれていく。

('、`*川「あんまり大きくて重いものは置いていくのよー」
(主^ω^)「よいしょーっ!」
(^ω^メ)「おいトロワ、それはアウトだ。どう考えても重いだろ」
(主^ω^)「えぇー…このソファお気に入りなのに」

廃ビルにあるソファやベッドは全てそのままだった。
コンロや携帯用の小型発電機、着替えに工具。
それらを積めば、もう軽トラックはいっぱいになってしまう。

(^ω^メ)「なに、安心しろ。アスキーアートは受入れ都市だからな。街中で暮らしてもそうそう手出しはされんさ」
(主^ω^)「お?ちゃんとした家に住めるのかお?」
('、`*川「あんたらが敵から盗ってきたお金が無駄にあるからねぇ」

ペニサスは自分の肩にかけた鞄を叩いてみせる。
鞄の中身は札束でぎっしり。ホライゾンとトロワが基地を襲うたびに頂いてきた活動資金だった。
機嫌良さそうに笑い、ペニサスは軽トラックの助手席に乗り込む。


108 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:01:32.84 ID:vYxvDT6W0

(主^ω^)「…最初は盗ってきちゃダメとか言ってたような」
(^ω^メ)「女は現金なんだよ」

頭を掻きながらホライゾンが運転席のドアに手をかける。
トロワは防寒着のフードを被り、荷台に乗った。
荷台に積まれた荷物を掻き分け、どうにか自分の座るスペースを確保する。

(^ω^メ)「よし、それじゃ行くぞ」
('、`*川「いいよー」
(主^ω^)「おー」

廃ビルに別れを告げ、軽トラが走り出す。
ゆれる荷物を抑えながら、トロワは廃ビルで過ごした時を胸に刻んだ。



113 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:04:38.38 ID:vYxvDT6W0
ホライゾン達は主にロシアで活動している。
正直に言えばロシアから出るのが難しいため、出るに出られないのだが。
ともかく、そういった理由で、彼らはロシア各地にいくつか隠れ家を用意していた。

(^ω^メ)「…ん、まだ使えるな」

世界に3つあるホルダー受け入れ都市、アスキーアート。
その街の端、老人くらいしか住んでいないような場所に、隠れ家のひとつがある。
車庫に軽トラを入れ、シャッターを下ろしたホライゾンは、電気をつけながらそう言った。

(主^ω^)「こんな良い隠れ家があったのかお」
('、`*川「私も知らなかったし。どしたのこれ?」
(^ω^メ)「昔買い取ってな。近くにこなかったから使わなかったが、ようやく使えるわけだ」

その隠れ家は豪華だった。
携帯用ではないちゃんとした発電機を備え、貯水タンクもある。
キッチンも風呂もある、普通の家。


117 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:08:05.38 ID:vYxvDT6W0

('、`*川「久しぶりにゆっくりお風呂はいれるのねぇ」
(主^ω^)「ということは…水をケチって三人一緒に風呂はいらなくても良いのかお!?」
(^ω^メ)「まぁ…そうだな。一応」
('、`*川「もうトロワに視姦されずに済むのね」

ペニサスがトロワに寄りかかる。
2年前はペニサスのほうが背が高かったが、今ではトロワが見下ろす形になっていた。
意地の悪い笑みを浮かべながら見上げてくるペニサスに、トロワが数秒間停止する。

(主^ω^)「ちょっ、もとからしてねーお!」
('、`*川「いやいや良いのよ別に。あんた年頃だし私グラマーだし」
(主^ω^)「ハッ。……陥没乳首のくせに」
('、`*川「タオル巻いてたのになぜそれを!?」
(^ω^メ)「だがそれが良い」
(主^ω^)「むむ。ホライゾンなかなか深いおー」
('、`*川「男ってみんな馬鹿なのかしら…」
(^ω^メ)「そうだ!」
('、`*川「ち、力強ーい!」

珍しくホライゾンも加わって、三人がはしゃいでいた。
それでも荷物の運び入れは進んでいる。
すべての荷物を運び終わり、新しい隠れ家の掃除や整理を終えたのは、外が暗くなってからだった。



119 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:10:27.20 ID:vYxvDT6W0
引越しを終え夕食をとった後、三人は一人ずつ風呂にはいった。
正直なところ、いまさら三人一緒に入ることに抵抗はなかったが、一人ずつ風呂にはいるという贅沢を味わいたかったのだ。
リビングで寛いでいたホライゾンの後ろで、脱衣所のドアが開く。

(主^ω^)「ふーぃ」
(^ω^メ)「おう。どうだ、一人で風呂はいるってのは」
(主^ω^)「んん。広かったお」
('、`*川「よーし、次は私ね。2時間はでてこないから、そこんとこよろしく」

頭にタオルを載せて風呂から出てきたトロワに、ホライゾンが水のはいったペッドボトルを投げる。
それを受け取ったトロワの横を、服を脱ぎながらペニサスが歩いていった。
ペニサスは長風呂ができると上機嫌だ。

(^ω^メ)「そこで脱がんでも…脱衣所があるんだが…」
(主^ω^)「癖って怖いお」



122 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:12:57.92 ID:vYxvDT6W0

ペニサスが脱ぎ散らかしていった服を洗濯籠に入れて、トロワはリビングに寝転がる。
ホライゾンはリビングに置かれたテーブルの上で、周辺の地図を開いていた。
地図に鉛筆で線を引きながら、トロワに話しかける。

(^ω^メ)「ああ、で、トロワ。明日にでも例のDATがある基地とやらを探しにいこうかと思うんだが」
(主^ω^)「ん。わかったお」
(^ω^メ)「今までの経験から言って、ある程度範囲を絞れるからな。すぐに見つけられるだろう」
(主^ω^)「なら、早めに寝るかお…僕の部屋は2階でおk?」
(^ω^メ)「どこでも勝手に使え。早い者勝ちだ」

トロワはさっさと二階に上がる。
一応はいい仲であるホライゾンとペニサスに気を使ってのことだった。
引越しを終えたばかりなのだから、危険もなかろう。

そう、トロワは考えていた。それはホライゾンも、ペニサスも同じこと。
だからこそ半ば無防備とさえ思える程に寛いでいる。
だが、三人は知らなかった。

トロワが風呂に入るときに脱いだズボン。
脱衣所の洗濯籠にいれられたそのズボンの裾に、小型の発信機がついていることを。
その信号を辿り、すでに隠れ家の傍まで敵が来ていることを。



127 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:17:00.46 ID:vYxvDT6W0
隠れ家の裏手で、二人の男がしゃがんでいた。
風呂場の窓をほんの僅かに、数ミリ開けて、そこに超小型のカメラを差し込んでいる。
カメラから伸びるケーブルはノートパソコンにつながっており、モニタには風呂場の中が映っていた。

(´<_`  )「ふむ…どう思う兄者」
( ´_ゝ`)「おっきした」
(´<_`  )「そうじゃないわボケ。いけると思わんか?」

弟者はカメラを抜き、音もなく窓を閉める。
モニタを見ていた兄者が残念そうな声をあげたが、無視して話を進めた。

(´<_`  )「警戒している様子はない。発信機には気づいていないだろう」
( ´_ゝ`)「まぁそうだな。後はあの女をうまくさらえるかどうかだが…どうやらいけそうだな」

兄者は持っていた鞄から、一本のスプレー缶を取り出した。
噴射口には細長いノズルがついている。
中身は、即効性の催眠薬だ。

(´<_`  )「今ターゲットは髪を洗っていたな。チャンスだ」
( ´_ゝ`)「うむ。しかし、本当に俺たちは汚い仕事しかできんなぁ」

兄者はそっと窓を開ける。
小さな音がしたが、その音はシャワーの音にかき消された。
いかにホライゾンが達人でも、さすがに感づきはしないだろう。

('、`*川「ふんふんふー…ん…?」

スプレーを噴射する音も、同様にかき消される。
即効性、無色無臭の催眠薬が風呂場に充満し、ペニサスは声を上げるどころか、自分に何が起きているか気づくまもなく眠りに落ちた。


130 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:20:10.00 ID:vYxvDT6W0
2階で自分の部屋を見繕い、トロワはベッドに腰掛けていた。
まだ眠気は訪れない。いい加減することもない。
暇をもてあましたトロワは、ホライゾンのいるリビングに戻った。

(主^ω^)「ホライゾン、ちょっと運動でも…」

リビングにホライゾンの姿はなかった。
いくらか時間がたったというのに、シャワーの音もやんでいない。
そろそろ風呂から上がってもいい頃合だろうにと脱衣所のほうを見ると、脱衣所のドアは開いたままだった。

(主^ω^)「…ありゃ?もしかして取り込み中…?」

少しばかり訓練でもしようと思って降りてきたが、2階に戻って寝たほうが良いだろうか。
そんなことを思いもしたが、正直少しは気にかかる。
トロワは耳を澄まし、脱衣所の様子を探ろうとした。

そこで初めて、違和感に気づく。
シャワーの音が不自然だった。脱衣所のドアが開いているせいかとも思ったが、そうではない。
閉じられた空間で聞こえる音ではなく、窓やドアが開いているような、遮蔽物のない音の抜け方。


131 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:20:31.10 ID:vYxvDT6W0

(主^ω^)「…?ホライゾン、いるのかお?」
(^ω^メ)「……トロワ。お前は無事か」
(主^ω^)「”お前は”?」

脱衣所を覗いてみると、ホライゾンが風呂場の中を睨んでたっていた。
その声は苦々しい。
風の流れから察するに、風呂場の窓はかなり大きく開かれているのだろう。

ペニサスがはいっていたはずの風呂場を睨み立ち尽くすホライゾン。
苦い声色。吹き抜ける風。止まないシャワーの音。
そしてなにより、ペニサスの気配がしない。

(主^ω^)「まさか…!?」
(^ω^メ)「ああ…やられた」

ホライゾンを押しのけるように風呂場を覗く。
ペニサスの姿はなかった。
目に付くのは、開け放たれた窓に貼り付けられた紙切れのみ。

それは、DATがあるという基地の場所を書いたメモだった。
手紙に書かれた差出人の名前を、二人は良く知っている。
数年の間、出会いはせずとも戦ってきた相手。ジョルジュ長岡。



135 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:24:14.15 ID:vYxvDT6W0
('、`*川「これは…マズイかな」

暗闇の中、無造作に転がされていた。
頬にあたる床の感触は冷たく、無慈悲なまでに無機質だ。
後ろ手に縛られた両手を動かそうとして、諦める。

状況は確認するまでもなく最悪。
ペニサスは捕まったのだ。

「目が覚めたかね?」
('、`*川「っ…おかげさまで」

突然かけられた声に、何とか驚きを隠して返答する。
聞き覚えのある声だった。
昔、自分がまだラウンジの研究所にいたころ、何度も聞いた声。

('、`*川「久しぶりね。ジョルジュ長岡」
( ゜∀゜)「そうだな、ああ、久しぶりだ。ペニサス伊藤博士」



138 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:26:26.41 ID:vYxvDT6W0

ジョルジュ長岡。ラウンジの全研究所の最高責任者。
世界最高のホルダースキルであるV.I.Pを目指して作られた人工ホルダーの唯一の完成型。
ペニサスはこの男が嫌いだった。

ペニサスがラウンジを離れたのは、この男の所業によるところが大きい。
自己のためだけにホルダーを誘拐し、そのスキルを奪う。
逆らう者には残虐で、配下のものには傲慢で、無関係の人間も平気で巻き込む。

('、`*川「…私はエサ?」
( ゜∀゜)「もちろんだよ博士。鬱陶しいホライゾンを仕留め、相棒のトロワの持つDATを奪うためのね」
('、`*川「来るでしょうね、あの二人なら。けど…貴方にホライゾンが倒せて?」
( ゜∀゜)「ふむ。確かに奴は強い…紅夜叉は厄介だ。あれの詳細なスペックは君の頭の中にしかなく、弱点もわからん」

ジョルジュは喋りながら電灯をつける。
ペニサスは裸のままだった。
転がされたペニサスを嗜虐的な笑みで見下ろしながら、ジョルジュは続ける。

( ゜∀゜)「この私が負けるとは思えんが、面倒なのは好かん。だから君が要るんだよ」
('、`*川「いやー…最低の生き物だわ、貴方は」
( ゜∀゜)「そうかね。ところで…エサというのに、手足は邪魔だと思わんかね?」



143 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:30:34.85 ID:vYxvDT6W0
ようやく昇り始めた陽が、薄っすらと部屋を照らす。
隠れ家のリビングでは、ホライゾンが静かに佇んでいた。
その身には紅夜叉を纏い、右手に見慣れぬヘルメットを持っている。

(主^ω^)「準備は良いかお?」
(^ω^メ)「お前こそ」

二階から降りてきたトロワも準備を済ませていた。
といっても、DATさえあれば良いトロワに準備も何もないのだが。
ホライゾンは一呼吸つくと、身に纏った紅夜叉を隠すようにコートを羽織る。

(^ω^メ)「トロワ。今度ばかりは敵も気合入れて待ち構えてるはずだ」
(主^ω^)「おー」
(^ω^メ)「危なくなったら逃げろよ」
(主^ω^)「危なくなったらあんたは逃げるのかお?」
(^ω^メ)「俺は危なくならん」
(主^ω^)「なんじゃそりゃ。なら僕も平気だお。それに…」
 
トロワは右手を突き出す。
握った拳に巻きついた鎖が、陽の光を反射した。

(主^ω^)「僕はあんたの相棒だお」
(^ω^メ)「…ふっ。そうだな」

いつものように、ホライゾンも拳を突き出す。
鎖と手甲。
ぶつけあった拳が、鈍い鉄の音を立てた。


146 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:34:20.28 ID:vYxvDT6W0
その日、敵がくることはわかっていた。
人質を使い、厄介なホライゾンとその相棒をおびき出す。
のこのこ出てきた二人を仕留めるために、基地には充分な兵力が待機していた。

そう、充分だと思っていた。
避けられるとは思わなかった。あれほどの機関銃を。
近づかれるとは思わなかった。あれだけの数を。

隊長「ば…馬鹿な…!」
下っ端「隊長、来ま…ぎゃああ!」

駆け寄る兵士の背後から、銀の光が弧を描く。
倒れた兵士の背中には、刃の飛び出した懐中時計が突き刺さっていた。
連なる鎖の向こうから、敵が二人歩いてくる。

隊長「ひっ…ひでぶっ!」

二人を待ち伏せていた一団の隊長は、逃げようと振り向く間もなく殴り飛ばされ、気絶した。
充分だったはずの兵力は壊滅し、硝煙と血の匂いだけが残っている。

(^ω^メ)「…行くぞトロワ」
(主^ω^)「あいおー」

人質、ペニサス伊藤を助け出しにきた二人。
ホライゾンとトロワは、彼ら兵士達の予想を越える戦力を有していた。

今までのデータとは違い、紅夜叉のヘルメットを被っていたホライゾン。
兵士相手には使わなかったDATを、今回だけは最初から使ったトロワ。
要するに、そう。彼らは、最初からクライマックスだった。


150 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:37:11.69 ID:vYxvDT6W0
ホライゾンとトロワ、彼らは正義の味方ではない。
もちろん己の正義に従い行動しているのだが、それは物語にでてくる主人公のように、必ずしも綺麗なものではないのだ。

故に、不殺の誓いなどは存在しない。
彼らの通った基地の庭。そこは地獄だった。
屍山血河と、俗に言う。

そのままの情景が、庭から廊下へと続いていた。
軍の特殊部隊にも匹敵する重装備に身を固めた兵士達が、ことごとく倒れ伏していた。
廊下に響く足音は一人分。

(^ω^メ)「死にたくなくば手を出すな。用があるのはジョルジュ長岡ただ一人」

岩のような男だった。
あるいは、赤熱した鉄の塊を思わせる。
高出力に維持された紅夜叉の体躯が、熱を放っていた。

行く手を遮る兵士達は手を出せない。
銃も、手榴弾も、あの紅夜叉の体躯には通じなかった。
一切の無駄、無為がなく、異常なまでに研ぎ澄まされた筋肉は、弾丸すら跳ね返した。

兵士「うっ…う」
兵士「に、逃げろぉ!」

ことここに至って、兵士達の士気は瓦解した。
散り散りに逃げていく兵士達を見向きもせず、ホライゾンは緩やかに歩を進める。
歩みの遅さは、自身を落ち着かせているように見えた。


154 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:41:25.45 ID:vYxvDT6W0
一連の映像を、ディスプレイを通して、トロワは管理室から見ていた。
紅夜叉は目立つ。二手に分かれようと言ったのはホライゾンだった。
ホライゾンが目をひきつけている間に、トロワはペニサスの居場所を探りにきている。

(主^ω^)「ん…研究室横の大ホール?」

監視カメラの映像に、一箇所だけ欠けがあった。
警備記録を見てみれば、そこだけ兵士が配置されていない。
それどころか、侵入者をそこに誘導するように兵士が配置されていた。

(主^ω^)「どうやら、ここかお。ならDATは…」

たとえ敵の思惑通りに誘導されようと、自分たちの側に選択肢はない。
罠の可能性など考えるまでもなく、ホライゾンはそこに誘導されるだろう。
自分もすぐに駆けつける。

(主^ω^)「あった?…4番カメラ!?」

親切にも監視システムにマーキングされていたDATの反応は、今しがた見ていた画面に映っていた。
ホライゾンを映していたカメラ。
兵士達に誘導されるはずだったホライゾンは、兵士達の逃亡により誘導ルートを外れていた。

そこに、DATの反応が重なっている。
カメラには映っている。DATを持った男の姿が。
画面越しでもわかる違和感。

この世界にいながら、どこか違う匂い。
自分と同じ存在だと、トロワは直感で理解した。
あれは自分の敵だと。


161 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:46:09.96 ID:vYxvDT6W0
4番カメラの視界内、誰もいない廊下をホライゾンは歩いている。
先程まで沸いて出てきていた兵士はもういない。
ホライゾンは、ただ前へと足を踏み出していた。

( ̄ェ ̄)「道を外れておりますよ」

その足を、冴え冴えとした声が止めた。
ホライゾンは側面の扉を見やる。
執事服に身を包んだ男が、手を後ろに組み、慇懃と佇んでいた。

(^ω^メ)「…道?」
( ̄ェ ̄)「はい。貴方の目指す人質はこちらではありません」
(^ω^メ)「親切だな。案内でもしてもらえるのか?」
( ̄ェ ̄)「お望みとあらば」

そう言うと男は、あっさりと背中を向けた。
ホライゾンの前に立ち、振り返りもせずに歩き出す。
手は後ろに組んだまま、戦う意思は感じられなかった。

(^ω^メ)「なんのつもりだ?」
( ̄ェ ̄)「生ものは時をかけては不味いものでして」

それきり道案内の男は口を閉ざした。
時間をかけては不味いという言葉に不安を覚えながらも、ホライゾンは後に続く。
廊下を抜け階段を上り、ホライゾンは大ホールへたどり着いた。


168 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:51:12.25 ID:vYxvDT6W0
その大ホールは、プレゼン等に使われる多目的ホールだった。
普段は休憩やレクリエーションに使われるホールには、今一切の物がない。
何もないホールで、一人の男がホライゾンを出迎えた。

( ゚∀゚) 「ようこそ、紅夜叉ホライゾン。お初にお目にかかる」
(^ω^メ)「お前がジョルジュ長岡か…」

道案内をしてきた男が、踵を返し去っていく。
背後にその気配を感じながら、ホライゾンはジョルジュに視線を向けている。
睨むでもないその視線に、ジョリュジュは一礼をもって応えた。

( ゚∀゚) 「わかっているとは思うが、これは罠だ。君にここで死んでもらうためのね」
(^ω^メ)「それはそうだろう…しかし、まさか一番偉いはずのお前が戦うのか?一人で?」
( ゚∀゚) 「おかしいかね?」
(^ω^メ)「いや、ありがたいが…妙に怪しいな」



170 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:51:37.28 ID:vYxvDT6W0

ヘルメットのバイザーに隠れてその表情は読めない。ホライゾンが一歩踏み出す。
その一歩に、凄まじい殺気が載せられていた。
ジョルジュはそれを感じながらも、張り付いた笑みを消さない。

( ゚∀゚) 「言っておくが私は強いよ?」

ジョルジュは、ホライゾンの戦力を良く知っていた。
ホルダーでもないただの人間でありながら、今まで戦い抜いてきた男。
紅夜叉の性能を抜きにしても、十分警戒に足りる。

それでもジョルジュは余裕を崩さない。
何故ならば、ジョルジュこそ世界最強の一角。
その身に宿す数多のスキルが、ホライゾンなど物の数ではないと嘲笑しているからだ。

(^ω^メ)「聞いている。V.I.Pに最も近づいた男…だろ?」
( ゚∀゚) 「やがて越える男さ」



174 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 22:55:54.96 ID:vYxvDT6W0
人の持ちうる最高の能力。世界にあまねくあらゆるスキルを、自在に使いこなす能力。
Variable Infinite Probability。
頭文字をとってV.I.Pと呼ばれる能力。

そを模倣すべく作られた人工のホルダー。

ジョルジュ長岡は、その唯一の成功作だ。
ホライゾンに相対するジョルジュの身体が隆起する。
人外のさらに上をいく筋力、皮膚は鋼に、爪は刃に。

(^ω^メ)「オーガか」
( ゚∀゚) 「さぁ!いくぞぅ!」

隆起した筋肉が、背中に鬼の面を作る。
身体強化系の最高ランクに位置するスキル、オーガ。
その豪腕が、挨拶代わりにホライゾンに放たれる。

白熱灯の下、風が唸った。
極限の速度によって真空が生まれ、風が捩れた音だ。
ただの力任せの突きだったが、ジョルジュのそれは、実に対戦車兵器に匹敵する威力を秘めている。

182 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:00:33.24 ID:vYxvDT6W0
小さな機械音がする。バイザーの裏側に走る文字の列。
首筋のアタッチメントが起動し、極小機械群が瞬く間に血流に乗った。
感覚は鋭敏化し、心のうちに耐え難い衝動が沸き起こる。

(^ω^メ)「ああ、いくぞ…」

使用者を暴走させるほどの戦意の向上。
だが、ホライゾンはそれを押さえつけた。

ジョルジュに対して、ホライゾンはゆるやかに片手を持ち上げる。
あの一撃は、そんなものでは受けられない。
たとえ紅夜叉があろうとも、片腕一本など障害物にすらなりはしない。
そのはずだった。

(^ω^メ)「――転」

ホライゾンが呟くや、ジョルジュの豪腕は空を切る。
ほんの僅かに触れた掌が、ジョルジュの突きの軌道を逸らしていた。
大きく、ではない。

むしろ自分へ引き寄せる形で、ほんの少しだけベクトルをずらしたのだ。
ジョルジュの拳が紅夜叉のヘルメットをかする。
だが、それだけだった。

( ゚∀゚) 「おぉっ!?」
(^ω^メ)「おい…ペニサスは無事だろうな?」

ジョルジュの一撃が空を切ったことを確認して、ホライゾンは一歩踏み出す。
後の先をとり、ホライゾンの掌底が奔る。
ジョルジュの身体が飛びのくより先に、その掌は突き刺さり、ジョルジュの巨躯は宙に舞った。

187 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:04:56.33 ID:vYxvDT6W0
たっぷり10メートル。
ジョルジュを吹き飛ばしたのは、俗に発頸と呼ばれる技だった。
紅夜叉の性能に頼らない、ホライゾンの技。

(^ω^メ)「どうした?本気でやらんと話にならんぞ」
( ゚∀゚) 「うむむ…これが達人という奴か…すごいものだな」

かぶりを振りながら立ち上がるジョルジュにダメージは感じられない。
それはV.I.Pを模して作られたジョルジュの特性によるものだった。
オーガだけではなく、いくつものスキルを同時に使えるというのがジョルジュの能力。

(^ω^メ)「で、ペニサスは無事だろうな」
( ゚∀゚) 「ああ、生きているとも」
(^ω^メ)「……そうか」

ジョルジュは無事だとは言わなかった。
最低限、生きてはいる。
その言葉に、ホライゾンが纏う紅夜叉の人工筋肉が脈打つ。


190 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:09:14.54 ID:vYxvDT6W0

(^ω^メ)「人から奪った力で己を飾っても、強くなったかどうかはわからん」
( ゚∀゚) 「む……」
(^ω^メ)「実感したかったんだろう?どれだけ自分が強いか。手応えのある敵を相手に」
( ゚∀゚) 「何を勝手なことを…」
(^ω^メ)「自分の命で試せ」

ジョルジュの余裕は、ほんの僅かに崩れている。
最初の一撃は防御させるつもりだった。
それが10メートルも吹っ飛ばされ、挙句に心の内を見透かされたような台詞。

僅かに薄れた余裕のかわりに、同じ分だけ苛立ちが募る。
腕にこもる力は増し、ジョルジュの身体がさらに引き絞られた。
常に発動している再生のスキルによって、ダメージは綺麗さっぱり消えている。

( ゚∀゚) 「なら試してみよう。お前が死ぬまでたっぷりとな」
(^ω^メ)「ああ、殺してみせろ贋作者」

ホライゾンは構えを取り、待ち構える。
鉄すら引き裂く爪をむき出しに、ジョルジュは凄まじい勢いで襲い掛かった。



192 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:12:56.27 ID:vYxvDT6W0
(主^ω^)「…!?」

ホライゾンの後を追い廊下を走っていたトロワは、何か大きなものが転がったような音に足を止めた。
ホライゾンのいるホールまではあと僅か。
どうやらすでにホライゾンは戦っているようだ。

(主^ω^)「ホライ…」
( ̄ェ ̄)「なりませんよ」
(主^ω^)「っ!」

廊下の真ん中。いつのまにか、トロワの前方に男が立っていた。
ホライゾンをホールまで案内した男。
管理室で見た、DATの反応と違和感を持つ男。

(主^ω^)「お前は!…僕の敵、かお」
( ̄ェ ̄)「ウローンと申します。数年越しにようやくまみえましたな」

トロワは2年間、ホライゾンのもと戦ってきた。
もう戦う力のない少年ではない。
だが、目の前の男は既にトロワの間合いの中にまで近づいていた。



194 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:16:46.79 ID:vYxvDT6W0

気配を巧妙に消している。
それだけで、自分が戦ったことのないレベルの相手だとわかる。
だが、この気配の持つ違和感はなんだ。

(主^ω^)「お前は…本当にフォックスの手下かお?」
( ̄ェ ̄)「そうですな。この世界に来て長く、もう顔もよく思い出せませんが…たしかに、フォックス様の下につきました」
(主^ω^)「下についた?フォックスが生み出したんじゃ…」
( ̄ェ ̄)「私は人間ですよ。あなたと同じ世界で、フォックス様に下った人間です」
(主^ω^)「な…!」

相手に殺気が感じられないために、トロワは武器を下ろしていた。
その手が、ウローンの一言で跳ね上がる。
刃の飛び出した懐中時計を構え、トロワはウローンをにらみつけた。

(主^ω^)「なんでだお!なんでフォックスに!」
( ̄ェ ̄)「私はDATを奉った神殿の警護を任された騎士団の一員でした」
(主^ω^)「トーチャンの部下…!?」



200 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:21:51.34 ID:vYxvDT6W0
違和感の正体。
そう、闇の気配が感じられなかったのは、自分と同じ世界の人間だったからだ。
フォックスの作った闇人形でないのなら、たしかに闇の気配がしなくても納得できるが。

(主^ω^)「そんな人がなんで…」
( ̄ェ ̄)「何のことはないですよ。神殿騎士団を破ったあの方の、行く末を見たかった」
(主^ω^)「それでも騎士かお!あいつのせいで僕たちの世界は…!」
( ̄ェ ̄)「まことに遺憾でした…ですが、それも運命。あの世界に未練のなかった私にはそう憤ることでは」
(主^ω^)「貴様…!」

トロワは拳にまきつけていた鎖を解く。
左にDAT、右には時計。
睨む目には敵意がやどり、機巧時計の刃を携え、駆け出した。

( ̄ェ ̄)「それに、私はどこか遠くで人生をやり直してみたかった。この世界に来て、それが叶いました。それだけで、私は十分でございます」

その敵意に応えるように、ウローンは後ろで組んでいた手を解いた。
白い手袋をはめた手に持つそれは、紛れもないDATの欠片。
片眼鏡の奥にある目が細められ、DATは一振りの剣へと姿を変える。

( ̄ェ ̄)「DATの魔剣ボンバルディア。貴方のDAT、頂戴致します」
(主^ω^)「落とし前をつけてもらおうお。僕の世界と、この世界でラウンジへ渡した知識の!」

湧き上がる怒りに、トロワはホライゾンに受けた教えを忘れた。
心を静かに八方を見る。そうすれば、敵の動きも見えてくると。
最初に、そう教わった。

今のトロワは敵の姿のみを見ている。
未だ剣を構えようともせず、あまつさえネクタイを直しているウローンの喉元を。
至極当然、トロワの構える時計刃は、ウローンの喉に吸い込まれた。

204 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:26:39.75 ID:vYxvDT6W0
時計の刃は空を切る。
普段なら気づいたかもしれない。ネクタイを直すウローンの手がいかに不自然か。
喉を狙った刃は、ウローンの持つ剣ではなくネクタイを直していた手でつかまれていた。

( ̄ェ ̄)「残念ですが…私はこちらの世界に未練がございます」
(主^ω^)「あぐっ!」

その反対、剣を握る手が、トロワの腹に突き刺さっている。
ウローンは刀身ではなく、剣の柄でトロワの鳩尾に打突を食らわせていた。
一瞬止まった呼吸を整えようと、トロワは大きく飛びのいた。

( ̄ェ ̄)「ですから、そう易々と殺されるわけにも…」
(主^ω^)「くっ…!」

すべるように、ウローンはトロワに追いすがる。
今度は剣を振るってきた。
両手の間に張った鎖で、数度の切り込みをなんとか捌く。

( ̄ェ ̄)「何せ、私には待っている者が居りますので」



207 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:29:51.12 ID:vYxvDT6W0

(主^ω^)「ぐっ…うっ…!」

捌くたびに、避けるたびに、ウローンの剣は鋭くなった。
この世界、この時代には死に絶えた、今なお生きる騎士の技。
剣に生きる者の一閃は、トロワが受けたことがないものだった。

( ̄ェ ̄)「…そこで私は思うのです」
(主^ω^)「はっ…はぁ…な、何をだお?」

いよいよ捌ききれないか、という所で、ウローンの手が止まった。
攻め気は消え、トロワは数歩後ずさる。
咳き込みそうになるのを堪えて、何とか呼吸を整えた。

( ̄ェ ̄)「世界を滅ぼされても、貴方はまだ生きておられる。憎しみは何も生まないと良く言いますな?」
(主^ω^)「…僕に、何もするなと…そう言いたいのかお!?」
( ̄ェ ̄)「たとえ貴方がDATを集め帰っても、フォックス様には勝てますまい。それならば、今を大切にすべきでは?」
(主^ω^)「何を!」



215 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:35:48.73 ID:vYxvDT6W0
トロワに睨みつけられながら、ウローンは剣をおろした。
ウローンはどこか諭すような口調で続ける。

( ̄ェ ̄)「例えば、この私。私は正直なところ、もはやフォックス様がどうなろうが知ったことではございません」
(主^ω^)「…!?」
( ̄ェ ̄)「その私が何故に貴方のDATを必要とするか?それは、この世界に留まりたいがためでございます」

トロワは無意識に鎖を持つ手を落としていた。
いくらか落ち着いた呼吸を、最後の一息で整える。

( ̄ェ ̄)「私はこちらの世界で、ある姉妹に剣を教えております。この世界に絶えて久しい剣術を、戯れに教えはじめたのですが」
(主^ω^)「……」
( ̄ェ ̄)「それが今では実に楽しく…生きる糧になっております。あの姉妹の成長を見守るために、貴方のDATと私のDAT、その二つだけをフォックス様の下に届ければ、私はこの世界に留まれましょう」



220 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:38:06.28 ID:vYxvDT6W0

(主^ω^)「……それで?」
( ̄ェ ̄)「貴方が大人しくDATを渡してくれるならば、命はとりますまい。貴方もこの世界で静かに暮らせば、穏やかな生き方も見つかるかと」
(主^ω^)「なるほど…そういうことかお」

憎しみがないといえば嘘になる。
自分のいた世界を滅ぼされたのだ、憎まないほうがおかしい。
その意のままにフォックスを討っても、空しいのかもしれない。

だが。そうではないのだ。
自分は父に頼まれた、世界を救う最後の希望。
何よりも、その目的のために力を貸してくれた仲間が。相棒がいる。
戦う理由は己の矜持。

(主^ω^)「悪いけど断るお。あんたの言うことも分からなくもない…けど、僕にはフォックスを倒す理由があるお」

落ち着いた呼吸と精神。
胸には、仲間と過ごした2年の月日が浮かんでいた。
そう、幾度もぶつけた、あの拳。

(主^ω^)「僕は…ホライゾンの相棒だから」



223 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:42:32.27 ID:vYxvDT6W0
機巧時計が弧を描く。
それはいかなる術理か、トロワの左手にあるDATから伸びる鎖が伸びていた。
DATを静かに光をもち、繰り出される時計の針がその進みを増していく。
右手を中継点に、鎖が円を象り回転する。

(主^ω^)「正義とか人々のためだとかカッコはつけないお」

ホライゾンはたった一人でラウンジと戦っている。
それは何のためか。世界のためか。
正義のためか、それとも、ペニサスのためか。

そうではない。
彼の戦う理由は、おそらく自分のためだ。
恋人を守ることも、ラウンジと戦うことも、すべては結果にすぎない。

(主^ω^)「僕は僕のために戦うお!」

そう。ホライゾンは、ラウンジが気に入らない。
トロワもまた、フォックスが気に入らない。
戦う理由はそれだけで十分だ。

十分といえば、これも十分カッコつけか。
そう思い、トロワは少しだけ微笑んだ。



227 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:45:32.79 ID:vYxvDT6W0
(主^ω^)「行くお!神殿騎士!」
( ̄ェ ̄)「ふむ…その意気や見事。私が思ったよりも大人であったようですな」

ウローンは一度瞑目し、剣を構えなおす。
もはや手心は加えず、剣には殺気が満ちていた。
待ち構えるウローンの背後に、背負った殺気が影をなす。

その影は、ウローンの取りうる迎撃手段。
ある程度の実力がないと見えない気の群像。
隙のないその影に、トロワは時計の刃を投擲する。

(主^ω^)「やぁあ!!」
( ̄ェ ̄)「―――っ!」

投擲でありながら、時計の刃は点の軌跡で襲い掛かる。
加速するそれは、やがて点から面へ。
片手で凌いでいたウローンは、いつの間にか両手で剣を握っていた。



231 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:49:35.13 ID:vYxvDT6W0
どれだけ凌いだか、それすら分からない。
時計の刃は刃こぼれだらけで、根元の鎖も傷ついている。
それでも、ウローンは前へと踏み出せないでいた。

( ̄ェ ̄)「むう…!」

速度を増し、軌跡も多様。
あのDATの鎖は、本来こういった使い方をするのだと気づかされる。
時には横から、さらには引き戻しを利用し背後から、時計刃は襲ってきた。

(主^ω^)「おおぉっ!」

さらには、トロワ自身の拳撃。
鎖を巻きつけた右拳が、刃に混じりウローンを狙う。
その拳の動きさえも鎖に伝わり、鎖はさらに複雑な軌道を描く。


232 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:50:49.81 ID:vYxvDT6W0

( ̄ェ ̄)「接近しながらも全方位からの攻撃に乱れがない!才をお持ちだ…が!」

再びトロワの鎖拳が迫る。
ウローンはそれを待っていた。
柄で拳を止めると、すぐさま剣を奔らせる。

片手でもち、横合いに大きく凪いだ剣身が、頭部を狙う時計の刃を捉えた。
打ち合いで綻んでいた鎖の結合部を、DATの魔剣が断ち切る。
錘を失った鎖は軌跡を狂わせ、あらぬ方向へと飛んでいった。

(主^ω^)「おっ!?」
( ̄ェ ̄)「起点、見切ったり!」

凪いだ剣を引き寄せ、柄尻に手をかける。
担ぎ構えからの真っ向両断。
鎖程度ならたやすく断ち切る一撃が、トロワの脳天めがけて打ち下ろされる。

ちょうどそのとき、廊下の彼方。
大ホールの扉がひしゃげた。



238 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:55:51.17 ID:vYxvDT6W0

紅夜叉を含めて100キロを越えた身体がホールの大扉にぶち当たり、扉をひしゃげさせた。

(^ω^メ)「ぐっ…!」
( ゚∀゚) 「どうしたね、ホライゾン。ペニサス博士が見ているぞ?」
(^ω^メ)「き…っさまぁ…!」

立ち上がるホライゾンの胸、紅夜叉の装甲板には、無数の傷があった。
すべてジョルジュの爪によるものだ。
その傷の数から、どれだけ直撃をもらったか見て取れる。

ホライゾンは、防御すらしなかった。
ホールの壁にあるモニタに映った映像が、一切の抵抗を禁じていた。

モニタに映るのは、研究室と手術室の合いの子のような部屋。
その部屋の中央に置かれた手術台にペニサスが寝かされている。
ペニサスには、手足がなかった。



244 : 都会っ子(高知県):2007/03/30(金) 23:59:34.56 ID:vYxvDT6W0
(^ω^メ)「………っっ!!」

砕ける程に歯をかみ締める。
たしかに死んではいない。
だが、止血もおざなりなあの様子では、いつ失血死してもおかしくなかった。

それでも、手出しするわけにはいかない。
その無力が許せなかった。
さっさと倒してペニサスを助けに行くには、ジョルジュは強すぎた。

( ゚∀゚) 「君は強いが、私を倒せるほどではないなぁ。彼女を助けることもできんなぁ?」
(^ω^メ)「ほざけ!」

基地に乗り込んだときから、紅夜叉は既に臨界出力で稼動している。
それでもジョルジュを殺しきるには膂力が足りなかった。
手がないわけではないが、それもペニサスの姿をお見せられてはどうにもならない。

ほんの扉一枚向こう、数十メートルの先でトロワが戦っている間、ホライゾンはひたすらジョルジュに嬲られていた。
胸の装甲どころか、紅夜叉に包まれた身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
苦痛を堪え見上げた先に、異変があった。


245 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:02:44.55 ID:Ym7LLuCU0
ジョルジュ長岡と、異世界の神殿騎士ウローン。
その二人以外は誰もいないはずの基地内で、二人の男が話していた。
いつも汚い仕事しか回されず、不満を募らせていた兄弟が。

(´<_`  )「そもそも母者を盾にせなんだら、俺らがぶっ殺してるよな」
( ´_ゝ`)「まったくよ。日々コキ使いやがってあの野郎」
(´<_`  )「けど今日ばっかりはな。俺らは今この基地にいないことになってるし」
( ´_ゝ`)「うむ。ジョルジュの野郎を殺ってくれりゃいい夢見れるんだがね」

愚痴を言い合いながら、流石兄弟はしゃがんでいる。
そこは研究室の扉の前だった。
電子ロックされた部屋のロックをはずそうとしている。

やれ機密の奪取やら誘拐やら盗聴やら。
そんな仕事ばかり回されてきた流石兄弟にとって、電子ロックのひとつやふたつ、風呂掃除よりも簡単だ。
ほどなくして、研究所の扉は電子音を立てて開いた。

まず弟者が監視カメラを手でふさぐ。
その隙に兄者はペニサスを手術台から下ろした。
兄者が廊下に出たのを確認し、弟者もカメラから手を離し外に出る。

('、`*川「…イ…ゾン?」

血を失い、意識が途切れかけているのだろう。
うつろな目のペニサスは、自分を助けたのが誰かわかっていなかった。
声をかけられた兄者は、一瞬だけ痛々しい表情を浮かべる。

( ´_ゝ`)「悪いが、人違いだよ」
(´<_`  )「兄者、こっちの部屋へ。応急手当をしたら逃げるぞ」
( ´_ゝ`)「おうともよ」

254 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:07:43.34 ID:Ym7LLuCU0
まず、画面が黒く。
カメラに重ねられた手が退くと、そこにペニサスの姿はなかった。
始末されたのではない。あれは、誰かがペニサスを助けたのだ。

(^ω^メ) (まさか…トロワか?)

ペニサスを助けたのは敵方の流石兄弟だが、ホライゾンがそんなことを知る由もない。
故に、ホライゾンはトロワの仕業だと思い、感謝した。
さすがは自分の相棒だ、と。

(^ω^メ)「ジョルジュ…お前の命運、尽きたようだぞ」
( ゚∀゚) 「はぁん?何を言っているのやら。あれが目に…」

背後のモニタを指差そうとしたジョルジュの動きが固まる。
指した先には、誰もいない研究室を映すモニタがあった。
ジョルジュの眉が寄せられる。

( ゚∀゚) 「あら?…だっ、誰の仕業だ!?」
(^ω^メ)「俺には頼れる相棒がいる。読み違えたな、ジョルジュ長岡」
( ゚∀゚) 「ウローンがしくじったというのか…?いや、だがしかし」



256 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:10:39.07 ID:Ym7LLuCU0

気を取り直したジョルジュの顔には、再び余裕の色が見て取れる。
散々嬲ったホライゾンのダメージは大きい。
自分のように再生できるわけでもなし、今更この差は縮まらないといった表情だ。

( ゚∀゚) 「勝てるのかね?満身創痍のその身体で」
(^ω^メ)「…紅夜叉の機能、お前はすべて知っているか?」
( ゚∀゚) 「いくらオリジナルとはいえ、それ以上性能があがるとも思えんが」
(^ω^メ)「ふっ…侮ったな、散々世話になったDATの力を」

紅夜叉のヘルメットで表情は見えないが、ホライゾンは薄く笑っていた。
今日だけつけたヘルメット。
それは本来、半ば封印されてしかるべき物なのだ。

ホライゾンの指が顎の下、ヘルメットの窪みにかけられる。
そこには、スライド式のスイッチがあった。



260 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:12:20.20 ID:Ym7LLuCU0
( ゚∀゚) 「DATの力だと?」

紅夜叉と呼ばれる試作型強化服。
遠い未来、内藤という名の少年に渡るそれは、身体だけを覆うものだった。
未来ではすでに失われたもの。

本来は、ヘルメットがついていた。
機能のほぼ全ては身体にあり、中枢は脊髄を通し首筋に集まり、そして、その操作系統は、頭部を守るヘルメットに内臓されている。

DATから引き出された、ありえない知識。
それをもとに開発されたのは紅夜叉ただひとつ。量産型は紅夜叉をもとに作られた模造品だ。
強化服としての基本性能は互角。

だがしかし、それはあくまで基本の性能。強化服としての、この世界での技術。
DATの恩恵は、紅夜叉だけが継いでいるのだ。
それを操るヘルメットは今、たしかにこの場にある。

(^ω^メ) (すまん。使うぞ、ペニサス)



262 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:14:34.36 ID:Ym7LLuCU0
心に映る静かなる水面。
凪いだ精神に落ちる一滴の雫。
穏やかに保たれ、うちに強い意志を内包した心象風景は、滅ぼされたかの世界で行われる魔術審議。

(^ω^メ)「我が求むは焔の災厄」

全ての人工筋肉が熱を取り戻す。
胸の、脚の、腕の装甲板が赤く染まり、ヘルメット内には理解不能の言語が飛び交う。
身体は締め付けられ、悲鳴をあげる骨格を、意思の力でねじ伏せた。

(^ω^メ)「…ロード」

ただ一つのみを求める強い意志。
付与された極少機械群により高められた戦意。
怒り。それすらねじ伏せる精神力。

DATから得た技術の起動法は、ただそれだけだ。
そうして初めて、紅夜叉はこの世界の理から、半歩外に出る。



265 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:16:16.87 ID:Ym7LLuCU0

ヘルメット内の文字が減っていく。残るのは、了承の一文字のみ。
システムのロードは完了した。
パンドラに封じられた災厄を、鉄の篭手が引きずり出す。

(^ω^メ)「ブレイザー…!」

肉すら炎に。骨すら燃えて。強化服の外装から漏れ出す熱気は、大気に舞う塵を焼く。
首筋の廃熱口から吐き出される熱風は、しだいに赤く。
熱で霞となった血が、風に乗って放出されていた。

それは災厄。命を散らす真紅のマント。
それは咆哮をあげる炎。
終わりという代償を払い生み出される力。

焔の災厄、ロードブレイザーシステム。



270 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:18:57.61 ID:Ym7LLuCU0

( ゚∀゚) 「…少々火がついたくらいで!この私が負けるものかよ!」

ジョルジュの身体が限界まで隆起する。
もはや肉の堺を越え、ジョルジュの身体は鋼の塊となる。
この世界における、生物が持ちうる最高の暴力。

背中に宿る鬼の面は、オーガの力の証。
その身は絶えず再生し、5感は研ぎ澄まされ、身体は絶えず成長する。
負けるはずが無い。

( ゚∀゚) 「ぬぁああ!!」

戦闘訓練も受けている。
それなりに才能もある。
それでもジョルジュは、血反吐を吐いて努力したことがなかった。

もしもジョルジュが真に一級の戦士だったならば逃げたはずだ。
逃げに徹して燃料切れを待つべきだった。
ジョルジュは、その豪腕をホライゾンに振り下ろす。



275 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:21:58.30 ID:Ym7LLuCU0
砕ける音がした。
空気の壁を破り、無造作を振り下ろされた腕はホライゾンを直撃する。
砕けたのは、ホライゾンの立つ床のみだった。

(^ω^メ)「全力か?」
( ゚∀゚) 「馬鹿なっ…!?」

ジョルジュにとって枯れ枝程度に過ぎないはずのホライゾンの片腕。
それだけで、豪腕は受け止められている。
それどころか、打ち下ろした腕の骨に、僅かに罅がはいっていた。

(^ω^メ)「ふん!」

ホライゾンは自らに打ち下ろされた腕を無造作に掴むと、大きく腕を振りぬいた。
物理法則や重量を無視し、ジョルジュの巨体が床に叩きつけられる。
続けざまに、地をはうような足払いが、ジョルジュを浮かせた。

( ゚∀゚) 「浮っ!?」
(^ω^メ)「はぁぁあ!!」

受身もとれない空中で、瞬きの間に7つの拳撃。
反動で相殺される分を差し引いても必殺の威力。
鋼の皮膚は砕け、堅牢な筋肉は千切れ、内臓にまでダメージは達した。

その最後。
とどめの一撃に、ホライゾンは左の手刀で貫手を放つ。
とっさに固めた腹筋に、グローブは砕け指の骨を折りながらも、その貫手はジョルジュの身体を貫いた。



277 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:24:42.13 ID:Ym7LLuCU0
( ゚∀゚) 「がぼぁっ!!」
(^ω^メ)「痛っ…システム解除…終わりだな、ジョルジュ」

ホライゾンの纏う炎が消える。
絶えず噴出していた血のマントも消え、紅夜叉は通常の状態へと戻った。
ホライゾンも限界だった。これ以上ロードブレイザーを起動していると、ジョルジュより先にしにかねなかった。

最後にはなった貫手は右胸を完全に貫いている。
肺をくり貫き、心臓もかすりとった。いくら再生があろうとも、もはや死に体。
あとは息の根を止めるだけだ。

( ゚∀゚) 「かっ…かっ!うぅぐ…お、おのれ…紅夜叉…いや、ホライゾン!」
(^ω^メ)「辞世の句くらいなら聞いてやるぞ」
( ゚∀゚) 「ふぐっ…ふふふ…だが、だがな。それでも、勝つのは私なんだよ」
(^ω^メ)「何?」

もはや一般兵士にすら殺せるだろうに、ジョルジュは勝ち誇った顔をしている。
ジョルジュは、強運だけは、確かに持っていた。
自らの持つスキルの一つを、ずっとあるモノにリンクさせていたのだ。

( ゚∀゚) 「―――置換」


278 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:25:09.92 ID:Ym7LLuCU0
リンクした物体と自分の位置を置き換えるスキル。
最後の最後で、ホライゾンは間を与えるべきではなかった。
何故ならば、そのスキルによりジュルジュと位置を交換したのは。

('、`*川「……」
(^ω^メ)「ペニサス!?」

流石兄弟によって助け出され、安全な部屋に隠されていたはずの。
ペニサス伊藤だったのだから。

285 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:29:14.53 ID:Ym7LLuCU0
廊下では、その一瞬だけすべてが静止していた。

ウローンの剣は、確実にトロワの脳天に振り下ろされるはずだった。
鎖を用いても防御は叶わず、避ける遑もあろうはずがない。
だが、ウローンの剣はトロワの頭上で止まっていた。

( ̄ェ ̄)「ぬっ、ぬぅぅ!!」
(主^ω^)「これは…斬るわけにはいかんだろうお」

防げないはずの剣を止めたのは、頭上に掲げたDATの欠片。
ウローンが己の欲を、この世界に留まりたいという願いをかなえるためにどうしても必要なもの。
トロワにとっても失えないそれを、トロワは一か八かの防御に用いた。

(主^ω^)「僕の勝ちだお。ウローン」

ウローンが剣を戻すよりもはやく、先端の時計を失った鎖がウローンの首に巻きつく。
トロワが鎖を引き寄せる。
首を絞められながら、ウローンの頭部がトロワの前に。

( ̄ェ ̄)「っ!…っ!!」

顎を突き出すように引き寄せられる。
その顎に、トロワは左手のDATを思いっきりたたきつけた。
鎖の戒めから脱し、ウローンは仰向けに地面に倒れこむ。

(主^ω^)「DATはもらうお。この世界にもう…DATはいらないお」


288 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:33:00.05 ID:Ym7LLuCU0

顎を砕かれ、うめき声さえ上げずに意識を失ったウローンからDATの魔剣を取り上げる。
剣の姿からもとの結晶体に戻ったDATを懐にしまい、トロワはホールへと足を向けた。
その瞬間だった。

(主^ω^)「―――え!?」

熱風、赤景、轟音。
ひしゃげた扉が吹き飛んでくる。
ホールが、大爆発を起こしていた。



290 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:35:54.46 ID:Ym7LLuCU0
四肢を失ったペニサスが、一瞬前までジョルジュが倒れていた床に転がっている。
その目はうつろで、焦点があっていない。
だが、生きていた。

(^ω^メ)「ペニサス!おい、聞こえ…あぁ、くそっ!」

すぐに抱き上げようとするが、すんでのところで踏みとどまる。
今の自分は、紅夜叉の廃棄熱で覆われている。
そんな体でペニサスを抱き上げれば、自分がペニサスの命を奪ってしまう。

ヘルメットを脱ぎ、急いで紅夜叉を脱ぐ。
内部に満たしておいた冷却液はもう残っていなかった。
耐熱処理のアンダースーツに、左の具足と右のグローブ。

(^ω^メ)「っ…助けてやる!死なさんからな!」

そんな格好で、ようやくペニサスに触れる。
触れた頬は冷たく、呼吸は弱弱しかった。
頬に触れた手の感触に反応して、ペニサスのぶれていた焦点がホライゾンを見る。



291 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:36:24.13 ID:Ym7LLuCU0

('、`*川「ぁ…?」
(^ω^メ)「!ペニサス!?」
('、`*川「ぁあ…あのね」
(^ω^メ)「なんだ?痛むか?」
('、`*川「無事で良かったね」
(^ω^メ)「あ?ああぁ、この俺が負けるか」
('、`*川「この調子乗りめ…あと、研究室に、手足…あるから…そんだけ」
(^ω^メ)「おい!?」

それだけ言って、ペニサスは目を閉じた。
心臓を鷲づかみにされたような、息が止まるような、そんな感覚が全身を走る。
まだ呼吸はしているが、そう長くは保ちそうになかった。

(^ω^メ)「研究室…!」

ホライゾンは、あのモニタを見る。
研究室とはあの部屋だろうと思うが、いったいどこにあるのか。
そんな悩みを持つ暇もなく、ペニサスを抱きかかえ立ち上がる。

と、ほんの小さな音がした。
例えるなら、そう。
爆弾の信管を抜いたような。


297 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:40:12.23 ID:Ym7LLuCU0
万が一の場合に備えて、爆薬を仕掛けておいたのだろう。
何とか逃げられたジョルジュがそのスイッチを押した、と。
ペニサスを抱きしめ地に伏せたホライゾンは、何故かそんなことを考えた。

四肢を失ったペニサスの体は、ホライゾンの手の中に綺麗に収まった。
炎はホライゾンの皮膚を焼き、破片が爆風に乗って突き刺さる。
脱いで捨てた紅夜叉がどこかへ吹き飛ばされていくのが見えた。

(^ω^メ)「う…おぉぉお…!」

舌を噛み切らないように腕を噛みながら、ホライゾンは爆発に耐えた。
背中は焼け爛れ、無数の破片が突き刺さっている。
噛んでいた腕は骨まで見えていた。

(主^ω^)「ホライゾンッ!!」

遠くでトロワの声が聞こえた気がする。



298 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:41:31.72 ID:Ym7LLuCU0
顔をあげると、すぐ近くにトロワがしゃがんでいた。
爆発で耳もやられたのか、それとも近づいてきたのがわからなかったのか。

(^ω^メ)「トロワ…研究室だ。あそこには手術台がある…こいつを助けるぞ」
(主^ω^)「なっ、あんただってえらいことになってるんだお!?まず手当てを――」
(^ω^メ)「こいつが先だ」

有無を言わさぬ迫力。
トロワは、気圧され頷くことしか出来なかった。
管理室にあった地図を思い返し、トロワは研究室とやらの場所を検索する。

怪我の度合いで言えば、ペニサスもホライゾンもそう変わらない。
さっきの爆発でホライゾンは歩くことも出来ないはずの怪我を負っていた。
それでも足取りがしっかりしているのは、執念といってもいいかも知れない。

(主^ω^)「こっちだお、ホライゾン。肩を」
(^ω^メ)「大丈夫だ。それより急ぐぞ…」



301 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:44:56.10 ID:Ym7LLuCU0
研究室にたどり着くまでの間に、ジョルジュ長岡は現れなかった。
おそらく、そのまま逃げたのだろう。
爆発の影響で廊下などもかなりのダメージを受けていたが、研究室は何とか無事だった。

(^ω^メ)「手足…とは、これのことか」

その研究室で、どんな研究が行われていたかはわからない。
だが確かに、そこには手足があった。
機械で出来た、機巧義手が。

(^ω^メ)「トロワ、頼む…こいつを取り付ける知識を…俺に」
(主^ω^)「…分かったお」

もうトロワは何も言わなかった。
ホライゾンの顔からは血の気が失せて、死相が浮かんでいる。
既に手当てされているペニサスとは違い、彼の身体からは未だ血が滴っているのだ。



307 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:46:59.05 ID:Ym7LLuCU0

もうトロワは何も言わなかった。
ホライゾンの顔からは血の気が失せて、死相が浮かんでいる。
既に手当てされているペニサスとは違い、彼の身体からは未だ血が滴っているのだ。

(主^ω^)「DATよ」

ラウンジがしたように、DATに願う。
ペニサスを助ける知識を、ホライゾンに。
ホライゾンの最後の願い。

ホライゾンは一心不乱に研究室の機器を操作した。
自動化が進んでいる設備は、半死人一人でも滞りなく手術を完遂できる程だった。
手を動かしながら、ホライゾンはどこか夢見心地なような、そんな声でトロワに話しかける。
何故か、口調ははっきりしていた。

(^ω^メ)「そういえばお前、DATはあったか?」
(主^ω^)「…ああ、あったお。僕の目的は、これで…」
(^ω^メ)「そうか…お前は勝ったか」



311 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:50:30.16 ID:Ym7LLuCU0
手術台の上に寝かされたペニサスにはもう手を出さなくてもいい。
機械にあとは任せて、トロワはホライゾンの手当てに回っていた。
破片を引き抜き包帯を巻く。その間も、ホライゾンは喋り続けていた。

(^ω^メ)「あぁいや、まだかな。お前はもとの世界に戻ってからが正念場だもんな」
(主^ω^)「…ホライゾン、どうしたお?今日はおしゃべりだお」
(^ω^メ)「正直、俺らは負けたけどな。お前は勝てよ…」

なんとなしに向けられた微笑が、たまらなく儚い。
そこにはもう、記憶にある力強さはなくなっていた。
ただ、その瞳に宿る光だけが、いまだ褪せず輝いている。

(主^ω^)「ホライゾン…あんたは負けてないお。あんたは勝ったんだお」
(^ω^メ)「うーん…どうかな。あぁ、そうだ、これ持ってけ。餞別だ」

ホライゾンは右手を差し出す。
嵌められてままの紅夜叉のグローブを。
もう、それを抜く力もないのかと、トロワの顔がゆがんだ。

(主^ω^)「っ…ああ、もらってくお。百人力だお、ホライゾン」
(^ω^メ)「ああ、勝つさ。なんせお前は、なぁ?」
(主^ω^)「ああ、そうだお」

差し出されたままの右手が、拳を作る。
いつからか繰り返していた、戦いの前の儀式。
トロワはその拳に、自分の拳をそっとぶつけた。

(^ω^メ)「お前は、俺の相棒だ」
(主^ω^)「僕は、あんたの相棒だお」

312 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:51:02.51 ID:Ym7LLuCU0
ホライゾンが唇の端を持ち上げて笑う。
年齢で言えばまだ少年のトロワでも、あどけない、と思った。
そういった笑みを、トロワは初めて見た。

それが最後だった。
ホライゾンの拳が落ちる。
背中に巻いた包帯はもう真っ赤に染まり、床には血だまりが出来ていた。

(主^ω^)「………」

しばらく、トロワは紅夜叉のグローブを握っていた。


318 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:54:08.18 ID:Ym7LLuCU0
中央の手術台では、ペニサスに義手が取り付けられている。
薬剤も投与され、血液のストックもあった。
おそらくペニサスは助かるだろう。

せめて隠れ家までつれて帰ってやりたいが、それも叶わないらしい。
トロワの懐で、2つのDATが共鳴していた。
もう帰る時間のようだ。

(主^ω^)「これで…終わりなのかお」

ホライゾンとペニサス、そして自分。
ラウンジと3人だけで戦い続けた2年間は、敗北で終わるのか。
あの2年は無駄だったのか。

(主^ω^)「――違うお」

そんなことは許されない。
たとえ自分がこの世界からいなくなっても、ホライゾンが力尽きても。
彼らの戦いが敗北で終わることは許されない。

(主^ω^)「DATよ、僕の最後の願いだお」

トロワは手の内にあるグローブを握る。
誰かが、誰かがいるはずだ。
いつか、ラウンジと戦う人間が、ホライゾンの意志を継ぐ人間が。


329 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:58:47.21 ID:Ym7LLuCU0
(主^ω^)「ホライゾンの意思をこのグローブに…力が足りないなら、この世界の人間から、僕の存在した記憶を消したっていいお…だから、頼むお」

元の世界に返るだけで精一杯だったDATが、僅かに光を取り戻す。
この世界の人間がもつ、トロワという少年が存在したという記憶を引き換えに、ホライゾンの残り香はグローブに宿る。
DATの光に包まれて、グローブの姿が霞んでいった。

(主^ω^)「いつか…ジョルジュ長岡を倒せる人に。ホライゾンの意思を継ぐ人を護ってくれお。紅夜叉の手甲…」

グローブは僅かに浮遊し、最初から何もなかったように、消えていった。
それと同じ光がトロワを包む。
自分の意思とは関係なく、強制的にDATが働いていた。


330 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 00:59:15.24 ID:Ym7LLuCU0
トロワは立ち上がり手術台を見る。
もうこれで、ペニサスは自分のことを覚えていないだろう。
思えば随分世話になった。

姉のように、母のように接してくれた。
もう彼女の作った質素な朝食も食べれない。
浮かんできた涙をこぼすまいと、笑って見せた。

(主^ω^)「ばいばい、ペニサス。僕、勝つお」

だから、見守っていて欲しい。
最後の言葉は声にならず、トロワの身体が薄れていく。
まるで最初から何も存在していなかったように、トロワの姿は光と消えた。

機械の駆動音しかしない部屋。
トロワの立っていた床に、一滴の雫が落ちていた。


335 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 01:01:56.15 ID:Ym7LLuCU0

そうして少年は帰っていきました
その後、彼がどうなったかは私も知り得ません

そうそう
彼が最後に、どこかの誰かに送った手甲は、確かに届きました

それを受け取った内藤という少年が、ジョルジュ長岡を倒すのです
それ以降も、内藤少年の右手には、常に”守護手甲ホライゾン”がありました


…おっと、子供たちに稽古をつける時間です
それでは皆様、申し訳ございませんが、此度のお話はこれにて終了

お聞きいただき恐悦至極にございました

え?
最後にひとつ?
なんでトロワという少年を知っているのか、でございますか

なに、それは簡単でございます
彼が最後の願いに用いた代償は、「この世界の人間の記憶から」彼の存在を消すことでした


この私だけは、この世界の人間ではございませんので―――



349 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 01:06:57.77 ID:Ym7LLuCU0


 (^ω^メ) 「次回予告!」

354 : 養蜂業(高知県):2007/03/31(土) 01:09:31.42 ID:Ym7LLuCU0
( ̄ェ ̄)「…たった一人の少年が、世界を巡る星となって流れた。一瞬のその光の中に人々が見たものは、愛、戦い、運命」

('、`*川「「今、すべてが終わり駆け抜ける悲しみ。明日、終わりが始まる」

( ゚∀゚) 「数多の世界、数多の想い。ついに今こそ、束ねた想いが、闇の狐に挑む時」

(主^ω^)「僕は、一人じゃない」


次回、最終回  「共通後編」

見逃すとペンさんが怒ります。


最終世界へ


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